1-18 (最終話)エピローグ
――王宮の庭園にある四阿。
マリスは、婚約者であるエルネスト王子と二人で、庭園の花々を眺めながらお茶を楽しんでいた。
マリスもエルネスト王子も非常に多忙な日々を過ごしていたため、ゆっくりと話ができる時間は久しぶりだった。
「兄上の使いの者が、手紙と、祝いのカードを持って来た」
エルネスト王子のその言葉に、マリスはわずかに眉を顰めた。
「テネブラエ男爵夫妻には、ぜひ婚礼に参列していただきたかったのですが……」
王立魔法学院を首席で卒業したマリスは、王太子となったエルネスト王子との婚礼をひと月後に控えている。
二人の身内であるテネブラエ男爵夫妻、リオネルとアンジェリクにも婚礼の儀の招待状を送っていた。
しかし祝いのカードが届いたということは、テネブラエ男爵夫妻の欠席を意味する。
「仕方がないよ。テネブラエは魔物の被害にあったばかりだ。領地の復興で忙しいと手紙に書かれていた」
最近、辺境に魔物による被害があった。
アンフェール要塞が辺境の小部族連合と交戦している最中、飛空能力のある魔物イビルラパースの群れが近隣の村々を襲ったのだ。
村を襲ったイビルラパースの群れを撃退したのは、なんとテネブラエ男爵リオネル・ゼフィール・テネブラエ。
リオネルが得意の火球で、次々とイビルラパースを仕留めたのだという。
その活躍により、今やリオネルは辺境では神のごとき人気を博しており、『辺境の守護神』というリオネルの二つ名が王都にまで轟いていた。
「多分、有能な部下がいて、兄上に花を持たせてくれたんだろうけど……」
魔法は凡才であったリオネルの繰り出すファイヤー・ボールの、慎ましい威力を知る実弟エルネスト王子は半目になった。
「テネブラエ男爵はきっと、皆様に慕われているのでしょう」
「そういう考え方もあるね」
マリスの言葉に、エルネスト王子はうんうんと頷いた。
「兄上はカリスマ性だけはあるから旗印にするには最適かも。王太子だったときは失態ばかりだったのに……。王都よりも辺境のほうが、奔放な兄上には合っているのかもしれないね」
エルネスト王子は少し遠い目をしたが、思い出したように顔を上げた。
「もう一つ、報告がある」
そう言うとエルネスト王子は、不味い物を食べたように顔を顰めた。
「アブラーゲ帝国皇帝の名代は、大使ではなく、トビー皇子殿下だそうだ」
王太子となったエルネスト王子の婚礼の招待状が各国に送られていた。
慣例により各国の君主に宛てた招待状となるが、君主が招待に応じることは稀であり、大抵は名代を立てる。
「……トビー皇子殿下が、何故……?」
マリスも微妙な表情になり言葉を濁した。
皇帝が名代に皇子を立てること自体はおかしくない。
しかしトビー皇子はマリスに何度も結婚を申し込んだ、いわくのある皇子である。
名代を選ぶ際には、そういった経緯は必ず考慮されるものだ。
「ちょうど王都に滞在中だから、ということだ」
「トビー皇子殿下、まだ王都に居らっしゃるのですね……」
「うん。まだ居る。早く帰れば良いのにね」
――モンストル公爵邸。
「マリスお嬢様、テネブラエ男爵夫人から、お手紙とお祝いのカードが届いております」
「まあ! 私にもわざわざ送ってくれたのね」
マリスの部屋に、侍女が銀のトレイに乗せて手紙とカードを持って来た。
テネブラエ男爵夫人アンジェリク・テネブラエからのものだ。
マリスは手紙を受け取ると開封した。
『マリスお姉様。
エルネスト王子殿下とのご成婚、お祝い申し上げます。
私は今、リオネル様と二人で幸せに暮らしています。
これもマリスお姉様が私のわがままを応援してくださったおかげです。
私もリオネル様も、マリスお姉様には大変感謝しております。
エルネスト王子殿下とマリスお姉様のご多幸を、私たち夫婦は心よりお祈り申し上げます。
マリスお姉様がちゃんと幸せを捕まえたことを、私は嬉しく思います。
ですがマリスお姉様はお人好しなので、私はちょっぴり心配です。
自分の幸せはしっかり捕まえておくものですよ。永遠に。
リオネル様の永遠の妻アンジェリク』
(永遠だなんて、大げさね)
マリスはアンジェリクからの手紙を読み、ぷっと吹き出した。
ピンク髪の美少女が、その金色の瞳に強い意志の光を宿し、絶対勝者のような自信に満ちた微笑みを浮かべていた姿をマリスは思い出した。
(でも、あの子らしいわ)
マリスの心に懐かしさがにじんだ。
『わがままな義妹に婚約者を奪われましたが、真実の愛を応援します!』
――完――
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ、評価、いいねなど、ありがとうございました。嬉しいです。
1章のお話はこれで完結です。
この作品は短編集になる予定で、2章からは別のお話となります。
小ネタはあと二つストックがあります。
しばらくこちらの投稿はお休みしますが、また書きあがったらまとめて投稿します。




