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悪役令嬢人形劇  作者: 柚屋志宇
第1章 わがままな義妹に婚約者を奪われましたが、真実の愛を応援します!

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1-15 テネブラエより

 ――辺境の小さな村テネブラエ。


 その村のすぐ近く、小高い丘のように盛り上がった土地には、石造りの古めかしい城があった。

 アンフェールに要塞が築かれる以前は、魔物たちの侵攻を防ぐ(とりで)として使われていた古城だ。


「あれが私たちの新居なのですね」


 馬車の窓から、丘の上の古城を見やり、アンジェリクは金色の瞳を輝かせた。


「ボロボロに見えるが……住めるのだろうか……」


 この地の領主となったテネブラエ男爵ことリオネル元王子は、窓の遠くに見える石造りの古い城を見て、その美貌にわずかに不安の色を浮かべた。


「王妃様が家具を揃えてくださったとのことですから、きっと中は綺麗に修繕されているはずです。到着したら早速、王妃様にお礼のお手紙を書かなければ」

「昨日も母上に手紙を書いていたね」


 昨日の宿で、アンジェリクが王妃宛ての手紙を書いていたことについて、リオネルは尋ねた。


「いつの間に母上と仲良くなったのだ?」

「私はマリスお姉様に幸せになって欲しいのです。それで、マリスお姉様が幸せになれるよう、王妃様にお力添えをお願いしているのです」

「そうか……」


 リオネルは苦い物を噛んだような顔をした。


「マリスには、本当に気の毒なことをしてしまった」

「リオネル様は悪くないです!」


 アンジェリクはリオネルの手を取り、その瞳を真っ直ぐに見つめた。


「マリスお姉様がお慕いするお方と結ばれるためには、リオネル様に婚約破棄される必要があったのです」

「な、なんだって?!」


 アンジェリクの言葉に、リオネルは紅い双眸を見開いた。


「マリスは浮気をしていたのか?!」

「お姉様は決して、そのようなことはなさいません」


 天使のような笑顔でアンジェリクは言った。


「お姉様はご自分のお心をご存知ありませんでした。ですが私には解っていました。お姉様のお心はリオネル様にはなく、ずっと、別のお方のところにありました」

「マリスは一体、誰を! あのチャラチャラした帝国の皇子か?!」

「エルネスト様です」


 当然のことであるかのように、アンジェリクは即答した。


「は?! エルネスト?!」


 突然、水をかけられたかのように、弟の名を聞いて目を丸くして驚いているリオネルに、アンジェリクは平然として言った。


「マリスお姉様とエルネスト様はずっと仲良しで、最初から老夫婦みたいに息がぴったりでした。お二人ともご自分のお気持ちに気付いていらっしゃらないようでしたが、私には解っていました」


「私も全然気付かなかったぞ……」


「だから私は、マリスお姉様とエルネスト様が結ばれるように、王妃様にご助力いただいているのです」


 祈りを捧げるようにアンジェリクは言った。


「エルネストの奴がマリスをそんなふうに見ていたとは……」


 元婚約者と実弟の浮いた話に、複雑な心境なのか美貌を歪めたリオネルに、アンジェリクはしなだれかかった。


「リオネル様には私がいます」

「もちろんだ。私はアンジェリクがいてくれればそれで良い。エルネストは堅物だと思っていたので、ちょっと驚いただけだ。別にマリスに未練があるわけではない」

「これからはずっと、私がリオネル様のお傍にいます」

「ああ、私の傍にいてくれ。私の妻はアンジェリクだけだ」

「はい。私はリオネル様の妻です。これからずっとお傍におります」


 リオネルにしなだれかかっているアンジェリクは、ふっと顔を伏せた。

 そして暗い微笑みを浮かべた。


「ずっとお傍におります。ずっと、永遠に……」






「外はボロボロだが、中はそれほどでもないな。これなら住めそうだ」


 古城に到着すると、使用人たちによりすでに部屋は整えられていた。

 居館の一室でリオネルとアンジェリクはお茶を飲んでくつろいだ。


「リオネル様、塔に昇ってみませんか。きっと見晴らしが良いでしょう」

「ああ、そうだな」


 昔は砦として使われていたという、城壁にぐるりと囲まれたこの石造りの古城には、いくつかの塔があった。

 一番高い塔に興味を示したアンジェリクに、最上階は見張り台として使われていたのだと、侍従が説明していた。


「行ってみるか」


 気軽にそう答えたリオネルに、アンジェリクは天使の微笑みを浮かべた。

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