1-10 真実の愛
「話は聞かせてもらったわ!」
アンジェリクは金色の瞳に燃え上がるような強い光を宿し、その場にいる一同に向けて威風堂々と言い放った。
「私もリオネル様と一緒に、アンフェール要塞に行きます!」
「なっ、なんだって?!」
アンジェリクの宣言にリオネル王子は驚きの声を上げた。
「駄目だ! 女の子が行くようなところじゃない。辺境はとても危険な土地なんだ」
「私はリオネル様のお妃になるんですもの。どんな場所へだって一緒に行くわ」
「魔物がいるんだよ。蛮族だって攻めてくる。女の子には危険すぎる」
「私も行きます。私がリオネル様をお守りします!」
リオネル王子とアンジェリクの言い合いに、王妃は今にも泣き出しそうな顔をして口を開いた。
「あなたの気持ちはとても嬉しいわ」
王妃は目元をぬぐいながら、アンジェリクに言った。
「でも女性が行くような場所ではないの。あなたのその気持ちだけで充分よ」
「アンフェールには要塞だけではなく町もあります。町には女性も住んでいます」
「とても厳しい土地よ。王都で暮らしていた箱入りの令嬢が耐えられる環境ではないわ」
「リオネル様が行くなら、私も行きます!」
(アンジェリク、凄い……)
国王の前でも物怖じせず、王妃にすら言い返すアンジェリク。
その苛烈な意志表示に、マリスは感動のようなものを覚えていた。
それはマリスが持っていないもの、まだ知らないものだ。
「……アンジェリク、お前は王子殿下の妃にはなれん!」
思考が回りはじめたのか、モンストル公爵が声を上げた。
「平民の血を引く娘に、王子殿下との結婚は叶わぬ!」
「私は妃の位が欲しいんじゃないわ。リオネル様と一緒にいたいの!」
アンジェリクのその答えに、リオネル王子ははっとしたような顔をした。
そして紅い双眸に決意の光を宿し、しかし静かな面持ちで国王に嘆願した。
「父上、いいえ、国王陛下。私は王位継承権を放棄します。アンジェリクとの結婚をお許しください。王族であることがアンジェリクとの結婚の障害となるのであれば、私を王族から除名してください」
「……!」
「……リオネル!」
リオネル王子の願いの前に国王と王妃は混乱を露わにした。
「リオネル様?!」
アンジェリクは大それたことに慄くように目を見張った。
「結婚しよう、アンジェリク!」
リオネル王子はアンジェリクに駆け寄ると、その手を取った。
「危険なアンフェール要塞に君を連れていくことはできない。だが結婚しよう。私の妃として、いや、妻となって、私の帰りを待っていてくれないか」
「リオネル様……」
アンジェリクとリオネル王子は目と目で会話するかのように見つめ合った。
(……絶対に叶わないはずのアンジェリクの願いが……)
マリスは目の前で起ころうとしている奇跡に瞠目した。
アンジェリクがリオネル王子と結婚することは絶対に不可能であるはずだった。
だがその不可能が、アンジェリクの強い意志で、覆されようとしている。
奇跡が起ころうとしている。
(これが愛なの?! 愛の力なの?!)
奇跡を見たいという気持ちから、マリスはアンジェリクの願いが叶うことを、リオネル王子が王子という身分から解放されることを、今や心から願っていた。
(そうだわ!)
マリスは閃いた。
「畏れながら、王妃殿下、お願いがございます」
マリスは王妃に願い出た。
「私は先程の、やりたいことや欲しい物を相談して良いという、王妃殿下のお言葉に甘えとうございます。どうか私の我儘をお許しください。私はリオネル王子殿下とアンジェリクの結婚を願っております」
マリスのその言葉に、王妃は大きく目を見開いた。
モンストル公爵夫妻が窘めるように、マリスに目で合図を送った。
余計なことを言わず黙っていろと言う意味なのだろう。
いつものマリスであれば両親の意に従っていたが、しかし今日のマリスは揺るがなかった。
「王妃殿下、どうか二人が結婚できるよう、お力添えを賜りたく存じます。これが私の我儘な願いにございます」
「マリス!」
「マリスお姉様!」
リオネル王子とアンジェリクが、神の名を唱えるようにマリスの名を口にした。
マリスは誇り高き公爵令嬢として、堂々とした態度で二人の視線を受け止め、優雅に微笑んだ。
「私は、お二人がご結婚できるよう応援いたします」




