1-01 婚約破棄
――古き魔法の国、アルカナ王国。
「モンストル公爵令嬢マリス・ミシェール・モンストル! 君との婚約を破棄する!」
王宮の祝賀会で、黒の学士服をまとった白髪紅目の美貌の王太子リオネル・ゼフィール・アルカナは言い放った。
和やかな歓談のざわめきに満ちていた会場はしんと静まり返った。
「……おたわむれを……」
婚約破棄を告げられた公爵令嬢マリスは、訳が解らずに、巨大な疑問符を浮かべながらそう返した。
しかしリオネル王子は白皙の美貌に険しい表情を浮かべた。
「マリス、君は王太子妃にふさわしくない!」
この国の始祖と同じ白髪紅目の神々しい美貌のリオネル王子に、黒髪青目にきつい顔立ちの公爵令嬢マリスが糾弾されている様子は、さながら天使が悪魔を糾弾している絵画のようにも見えた。
「卑怯で冷酷な人間に王太子妃は務まらぬ。よってマリス、君との婚約を破棄する!」
リオネル王子はそう言い放つと、傍らに立っている美少女を抱き寄せた。
ピンク髪に金目のその美少女はアンジェリク・モンストル。
マリスの義妹だ。
「私は、ここにいるアンジェリク・モンストルを私の妃とする!」
リオネル王子は高らかに宣言した。
「……」
マリスは面食らい、さらに巨大な疑問符を打ち上げた。
(それは有り得ないでしょう?)
アンジェリクは類稀な光魔法の才能を持つため、モンストル公爵が後見人となり養女とした少女だ。
マリスの父モンストル公爵の養女であるため、マリスの義妹だ。
しかしアンジェリクの出自は、メルル男爵家の三男が平民との間に作った庶子だった。
血筋を重んじるこのアルカナ王国において、アンジェリクはリオネル王子の妃にはなれない。
公爵家の養女となったとはいえ、平民の血を引く婚外子であるアンジェリクは王太子の妃には、未来の王妃にはなれないのだ。
「殿下、戯言は大概になさいませ」
「戯言ではない。私は真剣だ」
リオネル王子はマリスを正面から見据えると言った。
「私は今日、学院を卒業した」
そう、今日は魔法学院の卒業式だった。
そして魔法学士の位を授与された卒業生たちを祝う祝賀会が王宮で行われていた。
それがこの祝賀会だ。
「君に虐められているアンジェリクを学院に残して卒業せねばならぬことは、気懸りなことこの上なかった……」
リオネル王子は言いながらアンジェリクを愛おしそうに見やった。
「私はアンジェリクを守るために、アンジェリクを妃とすることを決めたのだ。よってマリス、君との婚約は破棄だ」
リオネル王子の突拍子もない発言の数々に、会場には押し寄せるさざ波のように、低いどよめきが染みわたり始めた。
「今後、私の妃となるアンジェリクに対する攻撃は、私への攻撃とみなす。私への攻撃はすなわち王家に弓引く行為である」
リオネル王子は堂々とした態度で、この国の始祖と同じ紅い瞳をマリスに向けた。
そして王者の厳格と寛大さとをもって言い放った。
「マリス、君とて反逆者として処罰されたくはなかろう。賢明な行動を期待する」
「……」
(殿下はアンジェリクを妃にはできませんが……?)
マリスはさらに大量の疑問符を打ち上げた。
お読みいただきありがとうございます。
今日は5話投稿します。
よろしくお願いします。
2025.05.11
1-01を改稿しました。