魔神ズヘオラ
ああ死んだ!絶対死んだぁッ!!
だってよ成功するわけないでしょ!異世界なんてあるわけねぇじゃん!全部おれのはったりだよ!嘘っぱちだよ!
・・・でもここはどこだ?
ポチャン。
水の音?てことは三途の川?沈んでるの?浮かんでるの?もうわかんねぇ!あ。そうだ、タバコ吸お。。。
ポチャン。。。。
・・・・ボッ!
指先の感覚が段々と戻って来る。それと同時に白衣の中の異物感も、体は動かないけどとりあえずよかった。どうやら中身は無事だ。俺の全てだ。
2メートルくらい離れた場所で火がついた。気が利くね。そこに火が付くってことは、ここは水の中じゃない、三途の川なんかじゃないぞ!だから俺はまだ死んでない!悪くて辺獄を彷徨っているだけ!助かる見込みはまだあるぞ!春日部ちゃんが冷蔵庫の中身に気づいてくれることに期待だ。
いやぁよかったよかった。春日部ちゃんのかわいい赤ちゃんの顔見たいもの。出来る事なら、まだまだ死にたくないもんねえ。
・・・ああ。けどな。いくつか気になる事があるんだ。付いた炎は青いし、俺の体は地面から水平に浮いてるみたいだし、下の方に気味の悪い魔方陣がさっきからちらちら見えてんだよ!
それにな、驚くなよ。。。うっすらと見えてる玉座っぽいところに座ってるのは明らかに人間じゃない。いや、みためは人間なんだがちょっとおかしい。頭から捻じれた黒い角が2本も生えてやがる!それに、影になってて見えにくいけど、彼女の後ろでうねうね動いてるんだよ!何かが!ぶっとい何かが!
・・・はっ!?まさか。。。
・・・まさかまさかぁー来ちゃいましたかぁ?僕やっちゃいましたかぁ?!さっそく異世界なんですかぁ!?ええ!?そこのきれいなお嬢さんよぉ!どうなんですかぁ?!ええ?
「黙れ」
あ。。。。はい。
えっと、俺の声聞こえてたんですね?すんません調子乗りました。死にかけのおじさんの分際で調子乗ってすんませえん。それにしても際どい格好だなぁいったいいくつなんだろう?髑髏のついた杖なんて持っちゃってさぁ・・・もうね、目の下の黒子も、ゴミを見るような虚ろな目も、どれもおじさんの大好物ですよ。殴って下さい!女王様!ははは。。。なんて、ねぇ?
「わらわはズヘオラ。女王などではない。かれこれ1600年生きておる・・・」
セ・・・セんりょっぴゃくさいいいいい?!なんてこった!信じらんねぇ!自らのハンデをあえて晒していく超強気なスタイルぅ!やべぇ、ドキドキして来た。
それにズヘオラ様、、、初めてあったけど超タイプじゃねえか!異世界って本当にあったんだなぁ。作って良かった異世界転生マシン。そしてありがとう、春日部ちゃん。幸せになれよ・・・ふっ。
「人の分際で、ずいぶんとうるさい奴じゃのぉ・・・しかし」
なんだなんだなんだ!!!うねうねが迫ってきたぞ!!やめろ!優しくしてッ!!おじさんに優しくしてぇー!
ぁ。
ぬるぬるする・・・///
それにあったかい・・・///
そんなズヘオラ様・・・///
ぁ。でもこれ・・・。
纏わり付いたものはタコの脚、とんでもねぇ力だ!やばい!折れるぞ!
そう思った瞬間。腰がめきっといってそこから下の一切の感覚がなくなった。
なんで平気でいられるのかって?平気なわけねえだろ!プチプチ神経が切れるのがわかるんだもの!でもなんでかな、声がでないのよ・・・誰か助けて!お願いだよ!シケモクいっぱいあげるから!
「わらわの毒膜を前に正気を保っておるとは。それに、太陽に一切汚されおらぬこの体・・・」
チクショー!人の腰をへし折っておいて!今度は生粋のオタク宣告かよ!容赦なく罵ってくれるじゃねぇか!もう一生ついていきますズヘオラ様ぁ!
「ふむふむ。おたくとな。言っている意味は良くわからんが、なかなか殊勝な心掛けじゃ」
ありがとうございます!ありがとうございますズヘオラ様!
ぁー。この期に及んで大変恐縮なんですが。わたくしの頼みを聞いていただけませんか?いえ決して!いやらしい事じゃないんです!神に誓います!
すると、ズヘオラ様は指先を顎に当てて、モデルみたいになっがい足を組みなおした。
「ふむ。神か、そんな者はおらんがの。面白い、申してみよ」
はは!タバコを吸いたいんですズヘオラ様!
「ふむ。これの事か?」
うねうねと動く足一本がポケットから器用にタバコを取り出した。俺の目の前でそれは左右に悶える。
そうそう!それそれ!ズヘオラちゃんわかってるぅ!ふぅー↑!
バキバキっ!!
あいたぁーー!!腕が・・・撃たれたばかりの腕が・・・。
「調子に乗るな」
は、はいすみませぇん。はんせーしてまぁーす。
でも、やっぱり優しい蛸さんなんだなぁ。しっかりと口にくわえさせてくれた。落ち着く。なんかベトベトしてるけど吸えなくはない、なにより本当に落ち着くよ。
あ、そうだ、火もセットですよ?ズヘオラ様!ライターも入ってますんで!ハイ!
「らいたーじゃと?ふむ。これのことか?」
そうそう!もう天才!ズヘオラ様マジ天才!マジ魔神!
「ふぅむ・・・中身は燃える水。ここがスイッチと火打石か。。。面妖な・・・」
・・・シュボッ!
見慣れた火の向こう側で、ズヘオラ様の顔に、小さな驚きが咲いた。
「おお!なんという事じゃ。太陽魔法も使わずとも火を起こすとは・・・おぬしは、本当にこの世のものではないのじゃな」
だからそうだって言ってるじゃないですかズヘオラ様ぁ!
・・・ふぅ。
頭がさえて来た。
思えば、羽陽曲折。いろいろあったなぁ。事の始まりはそう、俺がまだ8歳だった頃の話だ。
「長くなるのか?」
あ。すみません。出来るだけ短くしますんで!はい!
「うむ」
俺の実家は小さな定食屋だった。
お父さんもお母さんも、高校を卒業して、店を開いたくらいだから、特別頭脳明晰だったという訳ではない。
二人は朝から晩まで働いた。けど家は、同級生から笑われるくらい貧乏だった。
あの時の事はよく覚えている。
ある日、店にやってきた客の一人が出された料理に髪の毛が入っていたと文句を言って、それが大騒ぎになった。そいつは、ガラの悪い小悪党を絵に描いたような奴だったのさ。
お父さんもお母さんも、人がいいから、そいつの要求を聞いてお金を払ってしまった。
それがいけなかったんだ。
次の日から、似たような連中が入れ代わり立ち代わりで現れては売り上げをせびるようになった。そいつらから店を守ってやると言って、現れた奴等も、二人からなけなしの金をむしり取っていった。
二人は毎晩暗い顔をして、カウンターで頭を抱えていた。
その時おれは閃いたんだ。無いんなら作っちゃえばいいじゃんってね。
俺は、近くにあったゴミ捨て場から使えそうな物をかき集めて、記念すべき発明品第一号を完成させた。一万円札を無限に印刷する機械だ。
二人は真面目だから、きっと使ってくれない。そう思ったおれは、印刷した一万円札をバレないようにこっそり店のお金の中に足していった。
この時二人はすっかり自暴自棄になっていた。
もうびっくりするくらいバレなかったよ。
段々と、生活にも余裕が出てきて。二人は俺に、新しい服と、靴を買ってくれた。俊足だ。
お父さんとお母さんは、ただ、お金がなかっただけで。他の家の親と変わらない、立派な人たちだったんだって。俺はそう思った。
俺は、そのお返しとして、毎日重そうに捨てていたゴミを完全に分解するための発明品を二人にプレゼントした。二人が驚いた時の顔が今でも忘れられない。
そんなある日の事だ。
乱暴な奴の一人が、不審に思ったらしく。俺たちの住んでいる家の中にまで押し入ってきてタンスからなにからすべてを引っ掻き回していった。そして、秘密が奴らに知られてしまったんだ。
奴らの手によって。一年も経たないうちに国中の一万円札が偽札になった。
キャッシュレス決算が急激に流行り出したのもその影響だ。
それから俺は、訳のわからない機械を、馬鹿みたいに作らされた。特に、ゴミを分解する機械なんてなんど改良したか覚えてない。
お父さんは、俺の代わりに捕まって。お母さんはどこかへ消えてしまった。二人が大切にしていたあの店も、地球上探したってもうどこにもありはしないんだ。
それがこの俺、大神太一の過去だ。
ちょっと、語り過ぎちまったな・・・。
「ぅ・・・ぅぅ・・・・」
ってあれ!?ズヘオラ様?!まさか!ズヘオラ様ぁ?!俺の過去バナで泣いちゃった?!
「煙がしみる・・・」
そっちかーい!