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プロローグ

のどごしを追求しました。

 信じてもらいないかも知れないが、俺はこう見えて天才科学者だ。

風呂に入らないから髪はぼさぼさ、目も悪いから分厚いレンズのメガネをかけている。普段着は勿論きったねぇ白衣だし、履いているのはスリッパだ。コンビニだってこれで行く。


 そんな俺だが、実は先日、とんでもねぇもんを発明した。その名も、異世界転生マシンだ。異世界なんて、存在しないなんて、みんなは思うだろうけど実際は存在している。ただ、みんなが思うように都合のいいものじゃないかもしれない。なんでそんな風に言葉を濁すのかって?

それは、天国や地獄の存在を俺たちが知らないのと同じで行ってみないと分からないから。ただそれだけだ。


「せんせー!せんせー!せんせー!」


ドンドンドン!!!


誰かが研究所のドアの扉を叩いた。

研究所と言っても、ここは叔父の名義になっている一戸建てのアパートだけどな・・・。


古いし、つくりも悪いから、もうね、誰かが扉を叩くと家中がドラムの中みたいに揺れるのよ。うるさいったらないね。


「はいはい!今いくっての!うっせえな」


扉の向こうに居たのは春日部助手。一年前、日本国政府から送られて来た超優秀なアシスタントだ。マサチュード大学?確かそんな名前の大層立派な国外の大学を主席で卒業したらしい。

若いし、可愛いし、性格もいい、こいつが家に来ると、俺が昼寝している間に部屋はピカピカになるし、美味しい肉じゃがだってごってりと作ってくれる。味もサイコーだ。是非とも嫁にしたい人材ナンバーワン。

だがな、そう思い通りにはならないんだ。

こいつはもう人妻だ。相手は誰かって?それを聞くかね?相手はこいつの『お父さん』。いいか?もう一度言うぞ?ちなみにまだ異世界に行ってねえからな!あいては、こいつの、27歳も年の離れた血のつながってないお父さんだ!


「せんせー!なにをやっていたんですか2週間も!パパも心配してたのにー!」


相変わらず可愛い見た目だな。目なんてくりくりしてるし、小さいし。鼻はちょっと低いけど、それはそれで、この国の女性らしくて良き良き。

けどなぁ。よりにもよって、お父さんかよ。お前よ、春日部よ、ちょっとは庶民の事も考えて下さいよ。もう俺なんて頭おかしくなりそうだよ。

一昨日だって、コンビニの店員さんに声かけたらさ、自分の事いくつだと思ってるんですか?だなんてよ。ごみ見る目で見るんだもん俺の事。世の中それが普通なんだよ。

ゴミを見る目で見られるの。俺たちみたいなやつらはさ。一生そうなの。


「あーあ!!!」


「うわ!なんですか急に!」


「ああわるい、ちょっとな、いいアイデアが泉のように沸いたんだ。気がついたら、人類史上最も優れた発明をまた一つ生み出しちまった」


若返りマシンでも作るか。いや、全ての人間の寿命を100倍に伸ばして、多少の年の差なんて気にならない世界にするか・・・。

まぁでも、どうやったって無駄だろうな。悪い奴らに使われるのがオチだ。


「もおー!またそんなこと言って!大変なことになってるんですよ!せんせーが発明したトラベルポートが!」


「トラベルポート?なに?誰かが海賊版でも出したの?それとも、勝手に改造して沖縄と北海道がくっついっちゃったの?」


トラベルポートって言うのは、俺が前に発明した技術。簡単に言えばテレポーターだ。正確には、テレポーターの中でも生き物も問題なく送れるように改良したものだな。


「そんなんじゃありませんよ!」


「じゃあ何?冥王星と天王星がくっついた?」


春日部女史が大好きな天体ネタだ。こりゃ食いつくぞ。いつもそうだ、星の話になるとこいつは目の色を変える。元々子供みたいな見た目がもっとそれっぽくなる。だが言っとくがおれはロリコンじゃない。危険で優しい熟女好きだ。胸元とか、目の下とか、口の下に黒子なんかあったらもうサイコー。


・・・黒子製造マシン作ろうかな。


俺がそんなことを考えていると、春日部ちゃんは目に見えて血圧をぐんと上げた。

良くないよ、高血圧は。理由はわからないけど、お医者さんが良くないって言ってるんだから良くないんだ。


「せんせー!もう!また私の気をそらそうとして!その手にはもう乗りませんから!」


なに!?乗ってきてくれないの?!

あの三度の飯よりも天体好きな春日部ちゃんが?!オジサン寂しいよ・・・。

けどいったいどんな話なんだ・・・!急に怖くなってきたぞ。


俺は、タバコを一本取りだして口にくわえた。

落ち着く、体の一部が戻ってきたみたいだよ。実家に帰ってきたみたいだよ。もう実家は無いけどさ。


「あ!タバコはダメです!」


「いいじゃないのさ。俺にはこれしか楽しみないんだから。吸わせてよ」


白衣のポケットには、子供の夢みたいにシケモクとライターが詰まってる。俺の全てだ。

いつもみたいに火をつけようとしたら、春日部ちゃんが急に泣きそうな顔になった。思わず俺はライターの火をタバコから遠ざけた。


「でも・・・ダメなんですせんせー・・・ひぐっ・・ひっ!」


おいおいおい!急に泣くなよ!人んちの前でさ!俺が泣かしてるみたいじゃねえか!

でもどうして?俺が肺がんになってるのバレた?マジで?


「わかった!わかったよ!もう吸わない、約束する」


「ありがとうございますせんせー。実は、赤ちゃんが出来たんです」


「はっ?」


はいストップ!ストップだ!よし!いいか!作戦会議!誰か!俺と作戦会議だ!手を貸してくれ!

まず整理しておきたいことがある。春日部ちゃんは23歳、ママになるのは少しも変じゃない。むしろ順調なくらいだ。素晴らしい。ただその相手だよ!俺が言いたいのは!多分そうだよな!?てか絶対そうだよな!お父さんだぞ!あっていいのか・・・?


「わかったばっかりだから。まだ、黙ってようかと思ったんですけど。ごめんなさい」


「・・・」


いや、よそう。子供が生まれることの。新たな生命が誕生する事の。何が悪いんだ?何故あやまる必要がある。一番不安なのは、君じゃないか。


「謝る事ないよ。ちょっとびっくりしただけさ、おめでとう春日部ちゃん。もうタバコはやめる」


「ありがとうございます・・・せんせー。優しいですね?」


俺が優しいんじゃない。たぶん世の中が冷たくなっちまったんだ。そう思ったけど、、、これからママになろうって子にそんなこと言えないよな。言えるわけないよ。


「そ・・・そうかなぁ!そんなこと、ないとおもうけどねえ・・・!」


と、まあこの程度のリアクションでいいだろう。歳を取ると、若い奴らに気を遣うようになる、嫌われたら、なんとなく孤独になるような気がするし、なんというか、同世代はもう同じステージ上にいないんだ。だってよ。


あいつは、もう結婚して子供が二人もいるし。


あいつは、高級車に乗っている。


あいつは、実家の稼業を継いでるし。


あいつは、学校の先生になった。


あいつは、そこそこ売れたゲーム配信者だ。


あいつは、なろう小説家。


みんなマジで立派だよ。きちんと身を立ててさ。俺なんかとは全然違う。

せっかく作った異世界転生マシンだけど、、、春日部ちゃんの赤ちゃんの顔が見たくなってきちまったよ。。。使う事になるのは、当分先かな。


「そうです!せんせー大変ですよ!」


はいはい、真面目な春日部ちゃん。おいたんはきちんと覚えてますよ?


「トラベルポートがどうしたの?」


「事故ですよ!テレビ見てないんですか!?」


「え?」


事故?事故だって?俺のトラベルポートが?這って歩くよりも安全なあの発明品が誤作動?有り得ない。


俺がタバコを吸いたそうにしていると、春日部ちゃんはスマホを取り出した。相変わらず古い機種使ってんなぁ。だけどそれは見た目だけ、中身はゴテゴテに魔改造されてる。デカい都市一個分の演算を一手に担うマザーコンピューターと同じものが内蔵されている超高性能端末だ。


「ほら!これですよ!」


だけど、画面は信じられないくらいバキバキに割れてる。もう、こういうところが可愛いんだよこの子は。


「どれどれ・・・英語?俺英語わかんないよ」


「英語じゃありません!スペイン語です!」


どっちでもいいよ、分かんないんだからさ。これは伯方の塩ですぅ。これはモンゴルの岩塩ですぅってか。ちくしょうめ一々可愛い奴だ。


「スペイン語ね。うんうん。で?なにがおきのたの?」


「とある国がとある国に攻め込もうとして!2000人が一つにまとまっちゃったんですよ!」


・・・・え?


俺は言葉を失った。

何故なら、トラベルポートには再使用するまでのチャージ時間が存在する。時間の流れをエネルギーに発動する装置だからだ。だから、2000人なんて送れる訳無い。


「どういうこと?偽物を2000個も作ったの?もしそうなら俺は責任もてないよ?」


そんな事当たり前だ。もし丸々パクったとしても、偽物である以上、それは作ったやつに責任がある。そうだよな!そうだって言ってくれよ!頼むよ!シケモクいっぱいあげるからッ!


「ちがいます!」


「じゃ。どうして?」


「せんせーが前に造った伸び縮みマシンです!あれを使って2000人の兵士さん達を小さくして一時に送ろうとしたんです!」


「なんだって!」


マジかよ、まさかの合わせ技。誰がそんなことを思いついたんだ。うまくいくわけないだろう・・・。

あの伸び縮みマシンは、少ないご飯でもお腹いっぱいになるために造ったんだ。だから、一時的に中抜きされた細胞の分バカになる不良品だ・・・。だから隠しておきたかったのに!


「テストもしないで起動したのか?」


「そんなこと知りませんよ!ただ、元に戻せって!こんなことは生命に対する冒とくだ!って!」


冒涜なんて難しいことを言うのねあなたは。でも困ったな。実物を見て見ない限りは何とも・・・。

それに今日は、見たいアニメがあるんだよ。だからさ。頼むよ春日部ちゃん・・・。


明日じゃだめ?と、、、言いかけて俺はやめた。これ以上彼女を慌てさせちゃいけないと思ったからな。


「まぁ落ち着いてよ春日部ちゃん。君が慌てたって何の解決にもならないでしょうに・・・俺は偉いおじさんからの連絡を待つことにするよ」


「そうはいきません!いませんせーは!」



ばきゅーん!



え?バキューン?なんだよその音。もっとましな擬音なかったのかよ?何が起きたのか一瞬わからなかったじゃないの。


「せんせーっ!!」


俺は思いきり突き飛ばされて、玄関に倒れた。

少なくとも俺本人としては突き飛ばされたように感じたんだ。だが実際はそうじゃない。


「なんだ・・・血か?!」


血だ。左上腕部からおびただしい量の出血を確認した。撃たれたんだ!多分銃で!

やばい、もう死ぬぞ俺。皆さよなら愛してる。


「春日部ちゃん。愛してる・・・んーちゅっちゅ!」


「ぎゃーッ!!!!!」


俺の事は良いから、早く逃げろよ。まったく、本当にキスするぞ?

このまま逃げないならヤニくさい口でお前の唇マジで吸うたろか?ああん?


「せんせーキモイ!あ。じゃなかった!早く中に!」


「春日部ちゃん・・・」


いいから逃げろよ。

もうその言葉さえ出てこなかった。

銃で撃たれてピンピンしてる奴なんて、創作上のキャラクターだけだよ。実際、超いてぇからもう。衝撃的には鉄棒から落ちた時と変わらないよ。それに血も出るんだから。ドバーってさ。左腕というのも悪かった。心臓に近いからな。


気がつけば俺は眠っていた。1秒か2秒だ。目が覚めた時には、春日部ちゃんの白衣が真っ赤に染まってる。

おい、待てよ。君のきれいな白衣が台無しだよ。


「・・・クリーニングが」


春日部ちゃんは泣いていた。

この子を泣かすなんて、俺許せねえよ。でもな、やっぱり、俺にはなにも出来やしないんだ。

どんなすげぇ発明をしたってな。使う人間だってクリエイティブだからさ。俺の考えてないような使い方がされちまう。もちろん、それがいいとこもある。


けどな、悪い事の方が、ものすごく。。目立つのよ。


「ふく・・・よごれるから・・・」


「なにか・・・!せんせーのラボなら。なにか!」


もう行けよ本当に、君は一人じゃないんだからさ。よし!じゃあおじさんと算数しよう。


一人と二人、どちらが重要ですか?


因みに、一人の方は、もうじき死んじゃうおじさんでーす!


「・・・」


ダメだ、もう喋る事も出来ない。声が出ないよ。


でも春日部ちゃんは、諦めてないみたいだ。発明品の中から使えそうなものを探してる。

カビの生えたペットボトルを綺麗にする装置に。

床に散らばった煙草の灰を栄養に増殖するバクテリア。

室内でもこんがり日焼けできる小型太陽。

どれも役に立たないって、君だって分かってるのに。。。

そのガッツ、眩しいな。俺も若い頃は・・・・。今と変わらなかったな。うん。とにかく。


さよならだ。


ぐぅっと、闇に引きずり込まれるような感覚に襲われる。正直言ってくそ怖い、でも、大丈夫。たかが死。絶対起こる事が前倒しになっただけさ・・・・ふっ。


「・・・」


「せんせーの発明・・・・!これ!異世界転生マシン?!これなら・・・!」


ん?


いやまてぇい!


ちょっと!それしかないみたいな雰囲気になってるけど考え直して!?

それまだテストしてないのよ!君まで巻き込まれたら大変だから!実は冷蔵庫の中に死にかけた人間を復活させて、すごい力を持った、すごい緑色の、すごい怪物に生まれ変わらせるドリンクも入ってるから!使うならそれにして!?そっちにして!春日部ちゃん!後生だから!あ、でも、賞味期限の切れた牛乳見つけたらまた怒られちゃうなぁ・・・てへ。


「使い方は・・・眼球に電極を差し込んで・・・」


ぶす。ぶす。


ぎゃー!!!!!


ごろごろするッ!目がごろごろするよぉ!春日部ちゃん!


「スイッチを・・・入れる・・・・!」




こうして、俺の異世界ライフが始まった。

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