奪った者奪われた者
「よくも謀ってくれたな!」
男は怒気を発する。
心当たりがなくて徹は戸惑うしかない。
「謀る? 俺が?」
「そうだ」
そう言って男は徹を指した。
「お前から奪ったカード。あれは聖騎士のカードだ。プロテクションとかお前が使っていたスキルなんて全然使えない」
徹は察した。
勇者のカードは相手を選ぶカードなのだ。
そして、彼は選ばれなかった。
だから、勇者のカードは自ら聖騎士のカードに退化したのだ。
「勇者のカードはどこだ。出さないと酷いぞ」
そう言って、男は布から刀を取り出した。
刀剣の刃が鈍く月明かりを反射している。
「藤吾! もういいの、やめて!」
斬鉄が苦しげに言う。
「やめるものか! 俺は強いカードを手に入れて俺を馬鹿にした周囲を見返してやるんだ!」
「斬鉄」
徹は短く言った。
「刀を一本くれ」
「けど、今の私の刀じゃ……」
「いいんだ、くれ」
「わかった」
斬鉄は念じて刀を一本作り出した。
それを徹に手渡す。
徹は鞘から刀を抜き放った。
「どうやらまだ刀を折られたりないと見える」
男、藤吾は嘲笑うように言う。
「行くぞ!」
徹は斬鉄から離れるかのように直進した。
相手の刀が振り下ろされる。
それを、徹は回避した。
反撃の一撃。
相手の左上腕に傷をつけた。
斬れる。
その斬れ味に徹は舌を巻いた。
肉が空気のようだった。
「くそっ」
そう言って男はもう一太刀を入れようとする。
横薙ぎの一撃。徹は回避するしかない。
そこからはやたらめったらに振り下ろされる刀を回避し続けた。
光の矢が、二人の間に割って入った。
「動くな!」
成人男性の声がする。
徹は戸惑いつつも振り返る。
木の上から、成人男性が矢で狙いをつけていた。
「木下藤吾。お前を強盗容疑で逮捕する」
藤吾はしばらく黙り込んでいたが、そのうち笑い始めると、なにもないところを斬った。
「覚えておけよ。俺は絶対に勇者のカードを手に入れに戻ってくる」
そう言うと、彼はできた空間の切れ目の中に入っていった。
「ちいぃ」
そう舌打ちすると、成人男性は切れ目を追って駆けていった。
「大丈夫か?」
徹は斬鉄に言う。
斬鉄は表情を崩すと、泣き始めた。
「どうしてこんなことになってしまったんだろう……」
「奴の名前を言ったな。知っているのか?」
斬鉄は暫しの沈黙の後、頷いた。
「木下藤吾は、私の幼馴染です」
続く