刀の担い手
「プロテクション!」
徹は唱える。失われたカードのスキルを。
六角形を連ねたバリアは、そこには発生しなかった。
「くそ……なんで俺は」
夜の闇の中で、徹は地面を叩いた。
いつの間にか慢心していたのだろう。襲われても自分なら追い払えると。
そこに初見殺しの攻撃をされてあの有様だ。
悔やんでも悔やみきれない。
「貴方でも……そんな風に悔しがること、あるんですね」
七代目斬鉄だった。
いつの間にいたのだろう。
と言うか、隣の県に住んでいるはずの彼女が何故ここにいるのだろう。
「許せないのさ、自分が。どこかで慢心していて、油断してカードを失った自分が」
「私も、慢心していました。そして、負けました」
斬鉄は言う。
「私達、似た者同士ですね」
徹は立ち上がると、斬鉄に視線を向けた。
彼女はゆっくりと近付いてくる。
そして、徹の手を取った。
「大事なことを忘れていました。貴方の手、見せてください」
「手?」
「刀を持つ者の手です。剣士の手は全てを映し出します。それによって、私も刀をアレンジしなければならない。ここにはナンバースの人々に案内してもらいました」
なるほど。今回はナンバースが護衛についているというわけか。
徹は、ゆっくりと手を開いた。
マメで厚くなった掌がそこにはある。
「随分と、無茶をしたようですね」
斬鉄は呆れたように言う。
「あんたの手だって見せてみろよ。人のことは言えないはずだぜ」
「私は天才ではありませんからね。努力は成果を出すための最高の近道です」
「尊敬しちまいそうだ」
「それほどでもありません」
斬鉄は滑稽そうに苦笑した。
「勇者のホルダーさん」
「今は、聖騎士のホルダーだ」
「聖騎士のホルダーさん。なんで私が刀を折りたくないと思ったんですか?」
それは、至極簡単なことだった。
「刀を折るって言うたびに辛い顔をしてたし、あんた、爺さんのことなんだかんだで好きだろ。そういう奴の遺品を壊すわけにもいかんでな」
「器用な方ですね。話しただけで全てわかってしまう」
「まあ対人関係は得意な方だな。就職しても上手くやってく自信はある」
「私は不器用だから、尊敬しそうです」
「それほどでもない」
斬鉄はしばし手を眺めていたが、そのうち触り始めた。
「なるほど、なるほど。この手の持ち主ならば刀も喜んでくれるでしょう」
「できるのか? 刀」
「ええ。私のプライドにかけて」
「期待してるぜ」
「任せてください」
期待に応えると彼女は言った。それは、今まで人の期待を裏切らなかった人間の台詞だ。
本当に才のある人間なのだろう。
徹は、彼女に本当に尊敬の念を持った。
「なあ」
「なんですか?」
「全部終わったら、海にでも行かないか」
斬鉄は目をぱちくりとさせる。
「嫌か」
「嫌では……ありませんが。友達と海に行くなんて経験がなくて」
「友達と海に行ったことない? マジで?」
「マジです」
斬鉄は頷く。
「じゃあ俺が連れてってやるよ。刀を取り返した時の祝いに」
「期待しないで待ってますと言いたいところですが……貴方は随分な使い手のようだ。やはり、私の力量が勝負を左右するようですね」
「そこは心配してないさ」
徹は微笑む。
「勝利の女神は今俺の手を見ているからな」
「勝利の女神? 私が……?」
「不服か」
斬鉄はしばし沈黙していたが、そのうち滑稽そうに笑った。
「おかしな人。貴方みたいな人、初めて」
「俺も、あんたみたいな気高い女は初めて見る」
沈黙が漂った。
いい空気だった。
「面白そうなことしてるじゃんか。七代目斬鉄よう」
そう言って現れたのは、目を血走らせた彼。
徹を襲った男だった。
続く




