刀匠七代目斬鉄
一時間半ほどの車での移動の後、僕らは隣県のMT養成学校へと辿り着いた。
師匠が駐車場に車を停め、僕、徹、優子、純子が外に出る。
師匠は着いたことをスマートフォンで話すと、ゆっくりと外へと出て、車をロックした。
程なく、正面玄関から講師らしき人物がハンカチで汗を拭いながら出てきた。
「この度はうちの生徒が不祥事を起こして申し訳ない」
そう言って、講師は頭を深々と下げた。
師匠は慌てて手を振る。
「終わったことは仕方ない。七代目斬鉄に会いたいのですが」
「七代目斬鉄?」
優子が不思議そうな表情になる。
僕も同じだ。初めて聞く名だ。
「今、製造科の教室で精神集中しております。すぐに会えます。どうぞ」
講師はそう言うと、僕らを学内に招き入れた。
僕らは靴をスリッパに履き替え、見知らぬ校舎を歩き始める。
そのうち、畳の一部屋に通された。
一人の少女が、正座して目を瞑って精神統一をしていた。
長く黒い髪が印象的な美少女だ。
腕にはカードホールドが巻かれている。
「この制服だ」
徹は驚いたように言う。
「ここの学校の制服を着た奴に俺は襲われた」
僕は息を呑んだ。
僕らは確実に近付いている。犯人に。
「そうですか。やはり悪用されてしまったのですね」
そう言って、少女はゆっくりと瞼を開いた。
「七代目斬鉄でございます。以後お見知りおきを」
「斬鉄と言えば一流の刀匠の一族で、彼女の祖父の五代目斬鉄は実験的に本物の刀匠をホルダーとする試みに参加していた」
師匠が解説する。
「そんな中で生まれたのが、あの刀だ」
「今となっては、忌々しい」
七代目斬鉄はそう言って溜め息を吐く。
「その前に、貴方達は巻き込まれて大丈夫な人達なのですか?」
斬鉄にねめつけるように見られて、僕は少し怖気づいた。
「既に巻き込まれている」
徹が切って捨てた。
「力を示してください。ならば、私も協力しましょう」
「なら、ここは私が」
そう言って、純子が一歩前へ出た。
斬鉄は戸惑うような表情になる。
「貴女は?」
「純子。貴女のような肩書きはないけど、刀匠の端くれです」
「面白い。なら、製鉄合戦と行きましょうか」
彼女がそう言った瞬間、十本の刀が空中に現れ、地面に落ちた。
あんな一瞬で十本もの刀を作るとは、その実力は本物だ。
「五分内に作れた刀の数で勝負します。貴女も座って精神統一なさい」
「了解です」
純子は正座になり、瞼を閉じる。
「今の十本の刀を見て引き下がらないとは、よほど自信があるのかしら」
斬鉄の唇の端が妖しく持ち上げられる。
その妖艶とも言える魅力は、年相応のものではない。
「では行きます。誰か、開始の合図をしてくださいまし」
「五秒前」
徹が淡々とした口調で言う。
「四、三、二、一、スタート」
僕は正直不安だった。
純子は既に一流の刀匠だ。
属性武器も簡単に思えるような手軽さで扱い、僕らの冒険に大きく寄与している。
しかし、今回ばかりは相手が悪い気がするのだ。
二人の周辺に刀が落ちた。
斬鉄の周囲に七本、純子の周囲に五本。
純子は何を考えたのか、そのうち一本を手にとって、ハンマーを呼び出し叩き折った。
「ほほほ、自ら本数を減らすとは潔い。最初から諦めていたのかな」
「なんとでも言ってください。これは出来が良くない。私は製造者としてのプライドにかけてそんな武器の存在は許さない」
「挟持、というわけですか」
「ですかね」
「面白い」
再び、二人の周辺に刀が落ちる。
相手は十本、純子の周囲には五本。
時間をかければかけるほど差がつく。
やはり、相手が悪かった。
僕はヤキモキしながら純子を見ていた。
純子、今日ばっかりはプライドを取らなくていいんだ。
純粋に勝負に集中してくれ。
そんな願いも虚しく、純子は不満な刀を折り続けた。
結局、制限時間を終える頃には、大きな差が出来上がっていた。
「これで実力差は見えましたね。お帰りください。五代目斬鉄の作った刀は、力ある人々に取り返してもらいます」
「待ってください」
純子は息を荒げながら言う。
極限の集中状態が彼女の体力を削ったのだろう。
「その刀は、本当に刀として機能するのですか? 機能しなければ、それは刀ではない」
「侮辱ですね。私は七代目斬鉄ですよ? 中途半端な品は作りはしない」
「なら、その腕、確かめさせてください」
純子はそう言うと、斬鉄の周囲に落ちた刀を一つ掴み、鞘から抜き、自らの刀に叩きつけた。
折れた。
破片が空中で回転しつつ、畳に突き刺さる。
斬鉄が目を丸くした。
純子はその調子で、刀を枝葉のようにどんどん折っていった。
最終的に数が多かったのは、純子の刀だ。
斬鉄は戸惑うように、純子の刀を拾う。
「これは……この短い時間で、素材強化のエンチャントが成されている……?」
斬鉄は暫く唖然としていたが、そのうちくっくっくと笑い始めた。
「成る程、祖父は言っていた。お前は中途半端に才があるが、いずれ慢心した頃に思い知らされるだろうと。私は慢心していた。挑戦者としての心意気を失っていた」
斬鉄は純子の刀を下ろすと、深々と頭を下げた。
「私の負けです。貴方達はさぞ力のある方々なのでしょう。だから、破壊してほしい。刀剣斬鉄を」
「よくやった、純子!」
僕は純子の頭を乱暴に撫でる。
「えへへ」
純子はさっきまでの集中状態が嘘だったかのような、照れ笑いを浮かべた。
話が前へと進んだ。
僕らは斬鉄が話し始めるのを待った。
続く




