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勇者には戻れない?

 学校の進路相談室の前で僕達は徹と共に師匠の到着を待った。

 徹は俯いて、椅子に座っていて、なんだかとても小さく見える。

 心細さが伝わってくるかのようだ。


「お待たせ、徹君。災難だったね」


 師匠が純子を伴ってやってきた。

 純子が壊れたカードホールドを受け取る。

 カードホールドは、純子が触れると、発光を始めた。

 壊れた部分が、あっという間に元に戻る。


 それを受け取って腕に巻くと、徹は今度は師匠から無地のカードを貰った。


「勇者のカードはレアだから特例だよ。今後、紛失とかの代えは効かない」


「ありがとうございます」


 徹は頷くと、無地のカードを額に当てて念じ始めた。

 カードが徐々に輝きを放ち始め、そのうちそれは眩い白い光となる。

 そして、カードには絵が刻まれた。

 徹はそれを見て、苦笑した。


「こうなるんじゃないかと薄々思っていた」


 カードに描かれていたのは、勇者のカードに進化する前に徹が使っていた聖騎士だった。


「そうか。元は聖騎士のカードだったんだな。進化前に戻っちゃった感じか」


「ですね。レベルが足りないのか安全な環境にいるからかはわからないけれど」


 徹はそう言うと、カードをカードホールドに挿した。


「厄介な敵でした。あの刀は防ぎようがない。次に奴が狙うとしたら聖獣のカードだ。コトブキも歌世先生も気をつけてください」


「なんにでも切り込みを入れる刀、か。ちょっと、聞いたことあるんだよな」


「思い当たる節があるんですか?」


 徹は、師匠の目を見て言う。


「ちょっとね。ただ、特級品だから簡単に持ち出せるような品ではないはずだ。手順を踏んだなら」


「踏んでいない、とすれば?」


「有り得る話だね」


 僕は黙り込んでいた。

 徹は平静な状態でいるが、勇者のカードを手に入れるためにどれだけ努力をしたかを僕は聞き知っている。

 それを失った彼の現状のなんてむごいことか。


「僕が取り返すよ」


 僕は、気がつくとそう呟いていた。


「徹の勇者のカード、僕が取り返す」


「コトブキ……」


 徹は、初めて辛そうな顔をした。


「僕達は最高のトリオだ。戦力低下は許されない。いつ、次の四天王が襲ってくるかもわからないんだ。ユニコーンのカードを囮にしてでも、絶対に勇者のカードを取り返す」


 徹は、それまでぼんやりとした風だったが、いつもの強気な表情に戻っていた。


「ならば俺はお前を守ろう。ユニコーンのカード。けして奪われてはいけない一品だ」


 僕と徹は拳と拳をぶつけあわせた。

 その時、師匠のスマートフォンが鳴った。


「はい、もしもし歌世です。ああ、やっぱりですか。手順を踏まれていないと」


 師匠はスマートフォンを口元から遠ざけると、小声で言った。


「なんにでも切り込みを入れる刀の持ち主とコンタクトが取れそうだ。行けるかい?」


 僕はこの事件が始まってから初めて胸が弾むのを感じた。


「是非!」


「私もついてく。回復役は必要なはず」


 涙目の優子が言う。


「優秀な刀匠なのでしょうね。私も是非挨拶したいです」


 純子が神妙な面持ちで言う。


「じゃあ、皆。私の車に乗って。アポとっとくから」


 そう言うと、師匠はキーレスを徹に向かって投げた。

 徹はそれを、見事に受け取った。

 その目には、覇気の漂う光がある。


「なんにせよ手がかりは必要だ。勇者のカード。絶対に取り返してみせる」


 徹はそう言うと、先を歩き始めた。

 僕らは慌ててその後を追った。



続く

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