作り物の想い
結局、あの気持ちは悪魔による作り物だったのだろうか。
夜のベッドで、純子はそんなことを考える。
コトブキに惚れた。それは純然たる事実だ。
しかし、それが悪魔の介入によってなら話は違ってくる。
「……違うよ」
思わず、一人呟く。
あの時触れた指は、今もあの温もりを覚えている。
あの時から二人の運命は始まったのだ。
「絶対に、違う」
純子は、今度は躊躇わずにそう言い切った。
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「ということがあったわけさ」
ラーメン屋のテーブル席で番長と蹴鞠は向かい合って座っていた。
丁度、蹴鞠がこの前の四天王のトラブルを語ったところだ。
「四天王か。連続して当たるとはお前さん達も運がないの」
「勝ててきたのは運だよ」
「そう謙遜するない。実力じゃ実力」
番長は当たり前のようにスーツ姿だ。
それが蹴鞠には眩しく写る。
「あーあ、私も早く就職したいなあ」
「忙しいぞう。朝も夜もないしサービス残業も当たり前じゃからのう」
「探索庁勤めなんかになるからだよ。私はもっと普通でいい。三交代性ぐらいの」
「まあ給料はいいぞ。保証しておく」
「借金早く返せるように頑張るよ」
「おう、期待しとるわい」
そう言って、番長は残ったスープに取り掛かった。
「アークスに入った」
番長が唐突に言った台詞に、蹴鞠は硬直した。
「アークスって、あの異常者の集団じゃない」
「穏健派と過激派がおるのは否定せん。ともかく入ったんじゃ」
沈黙が場に漂った。
なにを言えば良いかわからず、どう思えば良いかもわからず、蹴鞠は困ってしまった。
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その日、探索関係の部は大半が制作科の生徒を迎え入れる。
レベル上げについてきてもらうというわけだ。
純子は扉の前で、名前を呼ばれるのを待っていた。
「純子さん、来てくれるか」
部屋の中からコトブキの声がする。
純子は、緊張しながら中に入った。
「今日からお世話になります。お願いします。後、これは言っておきたい」
「なんだい?」
コトブキが優しく問う。
「私はコトブキ先輩が好きです。偽りでもなんでもなく。これだけは本当のことを伝えたかった」
コトブキの笑顔が硬直した。
「またコトブキか」
緑が拗ねたように言う。
そして言葉を続けた。
「よろしくな、純子さん。こき使うぜ」
「ええ、願ったり叶ったりです」
少し照れ臭かったけど想いは伝えた。
この気持は、偽りなんかじゃない。
続く




