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出会った時は変えられなくても

 純子は、すんなりと僕の生活にとけこんできた。

 今ではDVDの貸し借りは当たり前だ。

 夜はラインでそれぞれ感想を言い合う。


『なんか私達って恋人みたいですよね』


 純子の送ってきたメッセージに僕は天を仰ぐ。

 いけない、これでは優子への裏切り行為だ。

 返事を考えるのにしばし時間を要した。


『ごめんなさい、こんなこと言ったら迷惑ですよね』


『別に。気にしてないさ。純子さんと気が合うのは事実だ』


 また、暫し時間が経った。


『もし』


 それだけ打って、純子は時間を置く。


『もしも出会ったタイミングが違えば、私達は恋人同士だった。そう思いませんか?』


 僕はまた天を仰ぐ。そして柔らかいベッドに倒れ込むように寝転がった。

 その意見には同感だ。

 しかし、認めてしまえばこれ以上一緒にいることはできないだろう。

 純子は友人だからこそ優子への裏切り行為にならない。


 彼女を優子にフラれた際の保険扱いすれば、両者への裏切りとなるだろう。


『変なことばっかり言ってごめんなさい。今日はもう寝ますね』


『おう』


『おやすみなさい』


『おやすみ』


 こうして僕らのラインのやり取りは一旦幕を下ろした。

 出会うタイミングが違えば。

 例えば僕がカメレオンのホルダーとして馬鹿にされてコンプレックスの塊だった時に出会えば。

 きっと僕らは仲の良い恋人になれただろう。


 しかし現実として、その時そばにいて励ましてくれたのは優子なのだ。

 僕はしばらくスマホの画面を眺めていたが、そのうち充電器に繋いで放置した。


 そして、外に出る。

 今日も師匠との訓練だ。

 気分転換には持って来いだった。




+++




 優子は昼休みに後輩から呼び出されて困っていた。

 屋上で話がある、とだけ書かれた手紙が下駄箱に入っていたのだ。

 とりあえずコトブキに皆の分の弁当を渡して先に行かせたが、早いうちに合流したいところだ。


 屋上の扉の前に、一人の少女がいた。

 小柄な少女だ。抱けば折れてしまいそうな。


 彼女は俯いていて、表情は見えない。


「優子先輩、ですね」


「う、うん。そうだけど」


「琴谷先輩の件について話があるんだけど」


「コトブキについて?」


 優子は戸惑う。

 コトブキは優子の恋人であり幼馴染だ。

 それについての話とはなんだろう。


「出会った瞬間は違えど、別れる順番は選べる。そうは思いませんか」


 相手は顔を上げた。

 その瞳を見て優子はぎょっとする。

 彼女の瞳は、赤く輝いていたのだ。


「ねえ、優子先輩」


 そう言うと、彼女は手を天に翳した。

 その瞬間、歴戦の感から、危ないと思って優子は数歩後ろに仰け反った。


 鼻の先を、回転する刃物が駆けていった。


「邪魔なんですよ、貴女」


 そう言うと、少女は手を前に翳す。

 空中に剣が数十本静止した。


 その切っ先は、全て優子を狙っていたのだった。



続く


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