勝手なものですね
休日の図書館、僕は恵と並んで机で本を読んでいた。
「どういう風の吹き回しですか? 私に同席願うだなんて」
「いいだろ。恵さんは僕の護衛なんだから」
「普段は人をまいて出かけるのに勝手なものですね」
確かに、デモンを討伐しに行く時もデートの時も恵をまいている。
我ながら勝手な話だと思う。
しかし、純子と二人きりで会うのは悪手な気がしたのだ。
しばらくすると、純子がやってきた。
早足で歩いて、僕の向かいに座る。
「こんにちは、琴谷先輩」
「うん、こんにちは」
「そちらは?」
「三笠恵です、よろしく。コトブキ君の同居人です」
「ははーん、なるほど」
純子が悪戯っぽく目を細める。
「アリバイ作りというわけですね」
「ま、そんなとこ」
図星を突かれて僕は素直に答える。
「勝手なものです。後はご勝手にどうぞ」
そう言って、恵は持っているライトノベルのシリーズ物に視線を落とした。
「それで、不死鳥のことですが」
「奴には核があったんだよ。そこを攻撃できないとどうにもならなかった」
僕は語る。仲間と共に戦った不死鳥との話を。
気がつくと、純子はメモをとっていた。
「純子さん、メモしてなにに使うの? まさか新聞部じゃないよね」
「違いますよ。私、小説家になるのがもう一つの夢でして。それで色々な人の冒険譚を記録しているんです」
純子のような可愛い子に話を聞いてもらったらそれは悪い気はしないだろうなと思う。
「内密で頼むよ。これ、公表したらまずい話だから」
「はあい」
純子は素直に頷く。
「映画、どうでしたか?」
そういえばそうだった。元はそういう話だった。
僕は紙袋と一緒にDVDを返す。
「英治らしいなって感じ。ただアーサーがマーリンの傀儡みたいに描かれてるのが気になったかな。マーリン主人公だから仕方ないけど」
「それは私も思いました。だから正統派な冒険ものとは少しずれるんですよね」
「そうなんだよな。けど戦闘のシーンは迫力があるし、最後のカムランの丘は泣ける。子供時代からの積み重ねがあるからね」
「そうなんですよねえ。そこら上手いと思いました」
共通の話題があるとはいえ会話がポンポンと繋がる。
僕のような陰キャにはこういう存在は貴重だ。
そのまま話しこんで、気がつくと昼になっていた。
「お腹空いたな」
僕が言う。
「バーガーショップかラーメン屋に足を伸ばしましょうか」
「どっちも四十分程かかるぜ?」
「美味しいご飯の前には良い運動です」
恵は平然と言う。
「それに、使えばいいじゃないですか。アクセル」
「それもそうだけどさ」
「琴谷先輩、ユニコーンの素早さにアクセルを掛け合わせられるんですか?」
純子は呆れたように言う。
「ま、そんなとこ」
僕は目を逸らしつつ言う。
こういう真っ直ぐな賞賛の視線が僕はどうにも苦手でならない。
「それじゃあ」
そう言って恵は本を閉じた。
「外、出ましょうか」
その言葉のままに、三人は外に出る。そして、僕と恵はカードホールドにメインカードを挿し込んだ。
そして、角と白い産毛のユニコーンの衣装に身を包んだ僕は、純子を抱き上げる。
「ちょっと失礼」
「きゃっ」
純子が僕にしがみつく。
抱き合うようなポーズになり、僕は少し照れ臭い気分になる。
「じゃあハンデ付きだけど行きますか。先に着いたほうに半チャーハン奢りで」
「え、それ、ずる……」
「――アクセル、フォー」
言うなり、恵は飛ぶように民家の屋根の上に飛び乗り、駆け始めた。
「仕方ないなあ。純子さん、激しく動くから舌噛まないように気をつけて」
純子は口を止めて、二度頷く。
「アクセル、ツー!」
唱えた途端、僕の足は羽が生えたように軽くなる。
そして、僕も屋根の上を駆け始めた。
純子のか細い手が僕の服を強く掴む。
こうしていると、恋人のようだなと思う。
そうこうしているうちに、休日は過ぎていった。
また、純子との距離が近付いたという感覚があった。
ラーメンを待つ間、少し事件があった。
恵の頬から血が出ていたのだ。
「どこかで木の枝にでも引っ掛けたかな」
そう言いつつ、恵は頬の血を拭った。
続く




