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四天王デモン

 一投閃華金剛突を後一発当てれば勝てる。

 そんな確信があった。


 徹が作ったデモンの傷跡からは硬い皮に隠された柔らかい肉の部分が見えているし、僕の攻撃した箇所もまた同じようになっている。

 さらに味方として現れた師匠とコースケ。

 負ける要素は無い。


 しかし何故だろう。こんな不安になるのは。


「ぐふふふふふ」


 デモンは笑って鉈を振り下ろした。

 それを徹は光剣で受け止める。


「侮っていて悪かったな、人間。本気の私を見せよう」


 そう言った途端、デモンの筋肉が膨張し始めた。

 三メートルあった体躯はさらに大きくなり、四メートルに届こうとしている。

 背中には翼が生え、鉈を受け止めている徹の顔色が悪くなっている。


「ぐぬぬぬぬ……」


 ――キィン


 また、あの鉄と鉄を鳴らしたような音。

 コースケが鉈を弾いて、徹を抱きかかえて移動する。


「ありがとう、危なかった」


「お安い御用さ。しかし、どうするかね」


 ――キィン、キィン、キィン


 今まではクールタイムがあったあの見えない刃が連続して襲い掛かってくる。

 僕らは直感で移動してなんとか回避できた。


「私の元に集まって!」


 師匠が言う。

 言われるがままに、全員師匠の元に集まった。


「不死領域!」


 そう唱えた途端に、師匠は炎に姿を変える。

 それは、僕らを包み込んだ。

 熱くはない。むしろ温かい。


 ――キィン、キィン、キィン


 見えない刃が放たれ続ける。

 危なかった。

 師匠がいなければ詰んでいた。


 そして、安全地帯にいる僕らにデモンは体当たりを敢行した。

 今だ。見えない刃が、止まった。


「アクセル、フォー!」


 僕は地面を蹴ると、徹の作った傷口を狙い、デモンの胸に槍を突き立てた。

 アクセルフォーとユニコーンのカードの合せ技。目にも留まらぬ動きとはこのことだろう。


 デモンが苦悶の声を上げて立ち止まる。

 そして、胸から槍を引き抜くと、翼をはためかせ始めた。


「お前らは一人一人バラバラに散ったところを殺す」


 そう言うと、デモンは空へと飛び立った。


「なんと眩い光か。これが太陽。これが木々の作り出す空気」


 デモンは羽ばたきながら呟くように言う。

 逃がすわけにはいかない。こんな脅威を、放置しておくことなどできない。


 僕は余っていたスキルポイントを、あるスキルに振り分けた。


「チャージ!」


 唱えると、僕の体は光となって天へと向かって飛んだ。

 デモンの体を槍が貫く。


 心の臓を刺した。そんな感触があった。

 青色の血が溢れ出る。


 滴るそれに抗い、槍を必死に握りしめる。

 デモンはバランスを崩すと落下し、そのまま頭から地面に激突した。


「死んだかな?」


 コースケが軽い調子で言う。


「これで終わりと思うな……」


 デモンは荒い息を吐きながら、か細い声で言う。


「異界は所詮我々悪魔の現界の手段にすぎない。強い力を持つ悪魔は今は弾かれて入れないが、いずれは私のようにラインを超えるだろう……」


 デモンは片手を天に伸ばす。


「見てみたかった。悪魔によって支配されたこの世界を」


 事切れたらしく、デモンの手が地面に落ちた。

 そのまま、デモンの体は砂のように散り散りになっていった。


「ふう、疲れたぜ」


 徹がぼやくように言って座り込む。


「流石はユニコーンのホルダーだね、コトブキ君。飛んでる敵に回避する隙間すら与えなかった」


 コースケがカードホールドからカードを抜く。生えていた角と手にあった金棒が消えて、軽薄な笑みを浮かべた少年がそこに残る。


「気になることを言っていたわね。異界とはなになのかを」


 師匠が、腕組みをして考え込む。

 そしてしばらく考えこんでいたが、諦めたように溜息を吐いた。


「まあ、今回は倒せたから良しとしましょうか」


(仇は討ったぞ、英治)


 僕は心の中で英治に話しかけた。

 もちろん、返事はない。


 ただ、もう英治は返ってこないのだという事実が、完全勝利の喜びを薄めていた。




続く

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