厳戒態勢
僕と恵は師匠に護衛されて家まで戻った。
なんとなく、落ち着かずにゲーム機の本体を起動させる。
画面では大好きなロールプレイングゲームのキャラ達が掛け合いをしているのにそれが頭に入ってこない。
何故、英治は死ななければならなかったのか。
何故、僕と恵は襲われたのか。
二つの何故が頭の中で渦巻いて、答えが出ない。
こんな時に師匠と模擬戦でもすれば頭を空っぽにできるのだろうが、生憎その師匠は犯人探しに奔走中だ。
時計の針が十時を指す。
いつもならば師匠と訓練している頃合いだ。
電話がかかってきた。
師匠からだ。
慌てて、通話ボタンを押す。
「やあ、どうしてるかい? まさか英治君の仇討ちだって外出したりはしていないだろうね」
「してませんよ。言われた通り待機しています。師匠の方はなにか動きがありました?」
「また一人、殺された」
背筋が寒くなる。
その一人が僕になった可能性は十分にあるのだ。
「現在捜査に当たっている探索員はアークスとナンバースだけだ。だというのに殺された。相手が悪かったな」
「厳戒態勢ですね」
「うん。ホルダーが安々と屠られるなんて異常なことだからね」
「この事件、いつ終わるんでしょうか」
「わからないな。相手の狙いがわからない限り。ただ、わかったことがある」
「わかったこと?」
「この町の地図を出せるかい?」
「ちょっと待ってください。パソコンで探してみます」
ゲーム攻略の為に起動していたパソコンで即座に検索する。
この町の地図が出た。
「まず、英治君が死んだ場所はわかるかい?」
「わかります」
町の南西部だ。
「君達が襲われた場所は?」
「ええと……蓮美町の辺りかな」
町の北西部だ。
大体の場所を見て、僕は唖然とした。
「で、今回探索員が殺されたのは笠木町の二番地十一」
その場所を検索して、僕はますます唖然とすることになる。
笠置町は町の北東部だ。
僕らが襲われた場所と英治が死んだ場所。英治が死んだ場所と探索員が死んだ場所。どちらも真っ直ぐ斜めになることもなく縦と横に並んでいる。
「三角定規で引いたような綺麗な線だろう?」
師匠の言葉で僕は我に返る。
「これは犯人の狙いと関係があるんでしょうか?」
「なにか目的があって動いているのは確かだろうねえ。で、私達は大体の当たりをつけた。地図に長方形を作れる最後の一点に奴は現れるのではないかと」
南東部で人が殺されれば、確かに綺麗な長方形が出来上がる。
「師匠も行くんですか?」
「心配するな。仲間と一緒だ。明日には吉報を持ってこれると私はなんとなく思っているよ」
「ありがとうございます。進捗情報を教えてくれて」
「君は情報を渡しとかないと下手に勝手に動くからなあ。進展があったんだから言うざるえまいよ」
僕の生まれ故郷で、なにかが起こっている。
今までになかった悪い方向での変異。
突如現れたあの謎の男は、この町を殺人鬼が彷徨く物騒な町にしてしまった。
「じゃあ、行くよ」
「手伝えることは……」
「君は寝なさい」
ピシャリと言われて僕は口ごもる。
眠れるわけがない。師匠が命を賭けているのに。
しかし、行ったところでアークスでもナンバースでもない僕に居場所がないのは確かだ。
「また捜査が進めば連絡するよ。おやすみ」
「……師匠、ご無事で」
「ああ。私は不死鳥のホルダーだからな。そうそう死なないさ。じゃ、切るぞ」
あっけらかんと言って、師匠は通話を切った。
犯人の出現パターンは見えた。
後はアークスとナンバースの探索員達で確保するだけだ。
だというのに、僕は一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
夜は更けていく。
ゲームのキャラクターが退屈そうに屈伸のモーションを取っている。
僕はなんとなく眠れずに、その待機画面を眺めて考えこんでいた。
続く




