深まる謎
僕は英治を殺した犯人と遭遇したことを師匠にスマートフォンで連絡していた。
「犯人の手に光の剣……勇者のホルダーかな」
「空間切り裂いてましたよ」
人間種のカードでは次元を斬り裂くことはできないはずだ。
アークスのような専門の技術に特化していなければ。
「なら聖獣? それっぽい技はあった?」
「なかったですね」
「ふむ」
師匠は考え込んだようで、数十秒沈黙した。
そして、気を取り直したように言う。
「ともかく、よく無事だったね。恵は魔力が低いからヒールにも時間がかかる。そこで待機しててくれ」
「すいません。千載一遇の好機に取り逃がして」
「仕方ないさ。今回は相手が上手だったと言うだけだ。車の処理もこっちでやっとくってアークス女に伝えといて」
「聞こえてるわ。車の処分ぐらいアークスでやります。てか、アークスの車だしね」
エリカが言う。
恵にも聞かせるためにスピーカーモードで喋っていたのでだだ漏れなのだ。
「なるほどね。違法改造とかしてそう。触らないでおくわ」
「あのねえ……」
エリカが呆れたように溜め息を吐く。
喧嘩になるかと僕がひやひやしていた時のことだった。
「あの……」
恵が恐る恐る口を開く。
「あの人、そもそもカードホールド装着してましたか?」
時間が凍ったような錯覚に陥った。
思い返してみる。
彼の腕にカードホールドはあったか。
僕らが超常の力を使えるのはカードをカードホールドに挿し込んだ時だけだ。
けど、彼の腕には、確かにカードホールドがなかった
そう、なかったのだ。
「……そういえばなかった気もする」
エリカが唖然とした表情で言う。
「なかった……ですよね。それなのにあの人、ホルダーみたいな技を使ってた」
恵は自身の言葉に怯えるように身震いする。
「怖い、です」
「一体、何者だったんだ……?」
「アークスの異界から管理者を無視して脱走したことからも思ったが」
師匠がスピーカー越しに口を開く。
「今回の相手は、上位存在かもしれない」
上位存在。過去にもその言葉を聞いた時があるような気がする。
それは確か、あの四天王を自称する悪魔と対峙した時のこと。
僕らはどうやっても異界を壊せなくて、管理者は自分達より上位の権限を持っていると判明したのだ。
「また、あの四天王戦みたいなことになるってことですか?」
「まだわからない。わからないけど、現実空間でまで空間を斬り裂いてたってんならそれはアークスでもできないことだ。どの道異常な存在だとわかる」
「僕達は……なんとかできるんでしょうか」
「狙いがわからない。何故上位存在は英治君を殺したのか。何故貴方達を狙ったのか。英治君と貴方達の共通項はなに?」
「同じ学校の生徒ってのがぱっと思いつく辺りですが」
「カードホールドを装着していること、だと私は思うな」
「犯人が狙っているのはカードホールド装着者ってこと?」
エリカが興味深げに口を挟む。
「まあそれにしても、どこを目指しているのかわからんとこではあるがね」
静寂が再び周囲を覆った。
僕達は、ただ不気味さに怯えながら、師匠の到着を待った。
続く




