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緊迫

 朝、ニュース番組を見ていて僕は食べていた卵を箸で落っことしそうになった。

 見知った景色が画面に映っている。

 ニュースキャスターが熱っぽく現場の状況を語っている。


「犠牲者は探索員養成学校に通う十六歳の少年です。鋭利な刃物で右腕と首を切断されて死亡した模様です」


「切断というと相当な力が必要ですね。これは加害者もホルダーなんでしょうか」


「警察の発表によりますと断定はできないがホルダーの犯罪である可能性が高いとしています」


「物騒な世の中になりましたねえ。反カードホールド団体の語気が荒くなりそうですね」


 気まずい空気が食卓に流れる。


「お前もつけてるもんな。カードホールド」


 新聞を読んでいた父がぽつりと呟くように言う。


「そりゃ、探索員になったら常時つけっぱなしだし」


「今からでも他の道を選ぶ気はないのか?」


「今更だよ」


「そうか」


 養成学校での生活も二年目。

 探索員以外の自分の将来なんて考えられないのが本音だ。


 しかし、こういうホルダー同士の争いみたいなものを知ると少し恐ろしくもなる。

 きっと、養成学校に子供を送り出している家庭は皆同じ不安を抱いていることだろう。


 気まずい空気から逃げるように、食事をかきこみ居間を後にする。

 丁度、優子が迎えに来たところだった。


「ニュース、見た?」


 優子が気まずげに問う。


「見た」


 頷く。


「ホルダー同士の争いみたいですね」


 恵が会話に交じる。


「ちょっと信じられないよね。殺しちゃうなんて。これから、そんな人殺しと一緒に授業受けるのかな」


 優子は不安げに言う。


「まだ学生が犯人だと決まったわけじゃないだろ。普段から恨み買ってる奴ならともかく」


「それがね」


 優子は言いづらそうにそこまで言って口を噤んだ。

 しかし、数秒後、意を決したのか言葉を発した。


「月詠君らしいの、犠牲者」


 僕は呆然とした。

 月詠英治。不遇な者同士愚痴を言い合った仲だ。


「それ、確実な情報なのか?」


 思わず、問う。

 優子は、頷いた。


「英治なら恨みなんて買ってない。てか、それほど探索科の生徒と接触してない」


「だよねえ。なんで月詠君が殺されなければならなかったんだろう」


 沈黙が場に漂う。


「行きましょうか。時間が結構危ういです」


 恵が言って、僕も優子も我に返る。

 そうだ、まずは目の前の授業だ。


 僕らは準備を整えると、学校へと向かった。



+++



「ホルダー犯罪だね」


 歌世は欠伸混じりに言っていた。


「確かに、常人の腕力じゃあ首を一刀両断なんて真似は不可能だ」


 コースケは頷く。

 二人は夜通し調査をした後、車に乗って、朝の通学中だった。


「けどね、歌世ちゃん。動機がわからないな。月詠君ってそれは大人しい子だったんだぜ」


「うーん」


 歌世は考え込んだ後、呟くように言った。


「嫌な予感がするのよねえ」


「今日の朝は校長先生のながあい話があるのはご愛嬌さ」


「休校にしてもいいんじゃないかなあ」


「登下校は集団で行うようにしたじゃないかあ。流石に探索科のホルダー数人を切り伏せるなんて真似、ユニコーンのホルダーでもない限りできないさ」


「私はあんたが刃物を武器にしてたら真っ先に犯人候補に上げたはずだわ」


「残念ながら、僕は鬼のホルダーだから金棒だね。頭が潰れてた時は僕を疑っていいよ。それは仕方がないことだ」


「アークスも関係ないのよね」


「ああ。今回ばかりはナンバースに協力しろと言われている」


「へえ」


 珍しい、と歌世は口調で言外に伝える。


「ナンバースとアークスの共同戦線だ」





続く

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