来たれ新人
「気が早くねえか」
そう言ったのは緑だ。
「新入生が部に入るのを許されるのは基本講習が終わる一年目の夏だろ? その時でいいんじゃね?」
それに対する反論を僕は既に考えていた。
想定できていた疑問だったのだ。
「けど、早々に部に足りない人材をアピールすることでそれにそってカードを育成してもらうことはできる。せっかく希望してもらえても人材被りで諦めてもらわなければならないとか勿体無いじゃない?」
「それもそうだな……」
先にシミュレーションしておいて良かった。緑の疑問に答えられなかったら指揮権が曖昧になっていただろう。
「じゃあ、足りない部員ってなんだろうな」
徹がフォローしてくれる。
「魔力を上げた僧侶」
優子が話を先に進める。
「優子と恵さんで足りてるんじゃないか?」
「恵ちゃんは力と素早さにも相当振ってるから純支援タイプじゃないよ」
と、コースケ。
「荷持も欲しい。俺も前に出たい」
と笹丸。
「魔力僧侶と荷持。まずこの二つか。僕達が引退した後のことを考えて前衛も一人ぐらいは入れておきたいね」
「三人か。まあそれぐらいなら部のカラーも変わらないだろう」
緑も納得したように言う。
「それじゃあ、次はいかに部に興味を持ってもらうかについて考えてみよう。僕はやっぱり、部の強みを生かすべきだと思う」
いいぞ、上手く仕切れている。
「部の強みって言うと?」
緑が怪訝な表情になる。
「勇者のホルダーと古代種のホルダー。レアなホルダーが二人いるんだから、生かすしかないよね」
「そういうのってアピールしなくても噂で伝わるもんだぜ」
やはり立ちはだかるのは緑だ。
緑は誰かが仕切ったり催しをするのは嫌なのかもしれない。
しかし、押し通るしかない。
番長はもういない。
この部には新たな羅針盤が必要なのだ。
「一つ、考えてきた」
緑以外の皆が、身を乗り出した。
「と言うのは……」
+++
新入生歓迎会の日がやってきた。
体育館に新入生が集まり、会長の歓迎の言葉を聞く。
まだカードホールドも自分のカードも配られていないまっさらな新入生。
「懐かしいな」
舞台の影で徹が目を細める。
「一年前は僕らもああだったもんね」
僕は万感の思いで言う。
「色々あったな」
徹も気持ちは同じようだ。
「ああ、色々あった」
徹と仲違いし、別れ、先輩と出会い、番長達と部を作り、徹と和解し、色々とあった。
本当に密度の濃い一年だった。
「……と言った辺りで、一つ皆さんに催しを用意しました。見ていってください」
会長の振りで、僕らは舞台の上に上がる。
そして、僕はマイクを取った。
「僕らは異界探索活動をしている異探部の者です。カードホールドの魅力を、皆さんに紹介しようと思います。まずは、僕らの実力を見てほしい」
行くよ、と師匠とコースケに視線を送る。
二人は、頷いた。
「アクセル、テン」
その言葉を、二人が異口同音に放った。
次の瞬間、二人の足が光り輝いた。
僕は先輩を背負い、僕ら三人は跳躍する。
一秒位も満たない時間で体育館の壁の反対側に行き着いた。
コースケは壁を蹴って舞台へと戻った。
どよめきが起こる。
僕は先輩の翼で滑空していた。
その六枚翼から、雨のような羽根が発射される。
「アイアンファントム!」
悲鳴のような声が上がる。
徹が、勇者が、舞台の中央に立った。
「プロテクション!」
六角形を連ねたようなバリアが現れ、羽を全て弾いた。
そして、徹は空中で十字を切った。
「ホーリークロス」
大口径のビーム。
僕の前に炎の翼と炎の円を背負った師匠が飛んでくる。
「不死領域」
呟くと、炎が燃え盛りバリアとなってホーリークロスを打ち消した。
そのまま僕らは滑空し、舞台に戻る。
「これが僕らの実力です」
戸惑いの静寂が数秒。
駄目か、と思った時、万雷の拍手が僕らを迎え入れた。
知らず知らずに気負っていたらしい。肩の荷が降りたような気分になる。
「僕らは魔力を上げた僧侶と荷持と耐えるタイプの前衛を募集しています。半年後の部解禁時に入部したい人は是非参考にしてください」
拍手が強まる。
緑が近づいてきた。
「認めるよ」
緑はそっぽを向きながら言う。
「部長はお前だ」
僕は微笑んで、一つ頷いた。
この日が正式に部長が決まった日のように思う。
僕らは拍手の中で、手を振り続けた。
続く




