指揮権を握れ
「いやー卒業してっちゃいましたねえ」
僕は夜の公園で師匠に話しかけていた。
番長の話だ。
「三年だからね。そりゃ卒業するさ。そして四月から君は二年生だ」
「早かったような遅かったような……なんか羅針盤を失った船って気分です」
「今までキャプテンシーは番長君が握ってたものね。けど忘れた? 部長は貴方よ」
そんな実感はあまりない。
去年は師匠なり番長なりが仕切ってくれた感がある。
「そんな主人公みたいな立ち回り、柄じゃないです」
「柄じゃなくてもやらなきゃならない。貴方は部長なんだから」
師匠は当たり前だろうとばかりに言う。
圧をかけられるとはこういうことなのだろう。
けど、一年経って僕も変わった。
自分が動かないと自分の身の回りはなにも変わらないの理解した。
なら、今度も動かなくてはならないだろう。
「ちょっと、今度の部活はしきってみようと思うんです」
「へえ」
師匠は面白い、とばかりに笑みを浮かべる。
「このままじゃわちゃわちゃになりそうだし、まとめ役は必要だし……以前なら徹がやってくれたんだろうけど、今の部じゃ新参だし」
「それは間違いだろう?」
そう言って、師匠は指を振る。
「今までは徹君を頼ってた、だろ?」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
「君が自発的に行動を起こそうとしている。指導している私としては嬉しい変化だね」
「どうでしょ。コトブキいきなり仕切りだしてうぜぇってなるかも」
「君の友達ばっかりじゃないか。そんなことは起きないさ。君は自分をやたら脇役だと言いたがるが、主人公への第一歩だと思い給えよ」
「主人公、かあ……」
未だに遠い言葉だ。
内向的で陰キャで脇役属性。
長年培ったそれは僕の中から離れてはいない。
けど、優子のためにも変わらなければならないと思った。
少しでも格好良い自分になりたいと思った。
だから、明日の部活では爆弾的な話題を投下しようと思うのだ。
引退していった番長のためにも、部の存続のためにも、後継者は必要だ。
「まあ、君は一兵卒であることを好む性質だからねえ。無理は言わないさ。修行、開始するかい?」
「お願いします」
僕はカードホールドにユニコーンのカードを挿すと、師匠に一つ頭を下げた。
翌日の放課後、僕らは部室に集まっていた。
師匠がまだ来ていないのでわちゃわちゃと皆で話す。
そして、時間を見計らって、僕は備え付きの教壇の前に立った。
口を開く。
「ちょっと聞いてくれ」
皆が黙る。
「今日は、新入部員の勧誘について打ち合わせをしたいと思う」
これは宣戦布告だ。
僕はこれから仕切り役になるぞ、という、学校生活の新たな一ページを作る宣戦布告だった。
+++
番田は異界庁の施設案内から離れて呼び出されていた。
サングラスをかけたオールバックの壮年の男が薄暗い部屋で黒く高級そうな革椅子に座る。
「なんですかのう。俺は仕事の説明を聞きたいんですが」
壮年の男はサングラスを一つ指で押し上げた。
「番田君、だったね」
「ええ。皆からは番長と呼ばれてます」
「聞きたいことがあるんだ」
なんだろう。
新任早々やらかした覚えはない。まだ仕事の作業にも手を付けていない段階だ。
「アークス。この名前は知っているかな」
番田は体が強張るのを感じた。
自分を殺そうとした共人達の集団。
アークスとは、番田にとってそんな存在だった。
(この男、何者じゃ……?)
読めずに、番田は戸惑うしかない。
続く




