今こそ壁を超えて 後編
白色の光が番長を包む。
神の闘気。空間断裂系の技以外では現状不可侵の防御だ。
最初から本気でいくらしい。
「プロテクション!」
面白いとばかりに徹は唱える。
六角形を連ねたような壁が徹の前にできあがる。
二人はそのまま、正面衝突した。
光と六角形の束がぶつかりあい火花を散らす。
そして、ひび割れていったのは、六角形の方だった。
「マジで!」
驚いたように徹は言い、数歩後方へ跳躍する。
「徹。お前さんは確かに器用じゃ。天才という奴かもしれん。勉強も実技も両立し、今までなんとなくでほとんどのことをこなしてきたんじゃろう」
番長は徹を指差し言う。
「けど、それじゃあ本物には勝てん。お前さんは努力して勇者になった。けど、努力したのはコトブキに抜かれてからじゃ。努力下手。お前さんを象徴するのに相応しい言葉を出すとすればそれじゃろう」
「ホーリーライン」
徹の光剣から線のような光が放たれる。
しかしそれは、神の闘気の前にかき消された。
「なんとなくで大体のことをこなせてしまった。それがお前さんの悲劇じゃ。追い詰められなければ努力ができん。そういう体質になってしまっておる」
「わかったようなことを……」
徹は苛立ちを隠さずに言う。
「ホーリークロス!」
番長は両手を広げて放たれた光を受け止めた。
相手次第では致死に至る技も、神の闘気は無効化してしまう。
「なんとなくそこそこ優秀な位置になんとなく収まってなんとなく満足する。そこを抜けん限りは、俺の域にも、ましてやコトブキの域には行けんな」
「勇者のなにが悪いっていうんだよ!」
徹は光の剣を振りかざし、番長に斬りかかる。
しかし、肩を狙ったそれすらも神の闘気は弾き返す。
「お前さんは優秀じゃ。だから言うとる」
番長はそう言うと、爪の生えた手で徹の腹部を貫いた。
鮮血が飛び散る。
僕は思わず動きそうになった。
それを、師匠が肩を掴んで止めた。
優子も同じように、口をふさがれている。
「もっと必死に足掻け、徹。お前さんの才能は勇者になったことが上限ではないはずじゃ」
徹は震える腕を持ち上げ、唱える。
「ピンポイントプロテクション……!」
プロテクションのバリアが一枚の六角形に収束された。
そして、それを拳に纏い、徹は腕を振った。
神の闘気が歪み、そして浸食される。
光を貫いて、徹の拳が番長に突き刺さった。
番長は血を吐く。
しかし、その表情には笑みがある。
「それでいい、徹。もっと必死になれ。まだまだお前より強い奴は沢山いる。コトブキに勝ちたいならそいつらにも勝たねばならんじゃろう?」
番長は徹の腹から爪を引き抜いた。
「ヒールをかけてやってくれ。これで、俺の柄でもない説教は終わりじゃ」
優子が弾かれたように飛び出し、徹の腹部に治癒呪文をかけ始める。
「アークスという得体の知れない敵がおる。また奴らと遭遇した時には徹。お前の力が必要になるはずじゃ。明日になるか、何十年も後になるかはわからんが、お前が皆を守ってやってくれ」
「お節介な先輩だなあ」
徹は調子が狂うとばかりに言う。
「けど、わかりましたよ。確かに俺は、すぐに現状に満足する癖がある」
「さらなる飛躍を期待しとるよ」
「ええ」
徹が手を差し出す。
番長は口から出た血を拭いながら、握手に応じた。
「心残りなく引退してください、番長」
「ああ。伝えることは伝えた。俺のできることは、これが最後じゃ」
「さーて、そうと決まったら追い出し会といきますか。先生の車でサイゼ行くわよ、サイゼ」
師匠がそう言って仕切り始める。
やった、という声が重なった。
徹と番長はしばらく不敵に微笑み視線で火花を散らしていたが、そのうちどちらともなく苦笑して皆に混じっていった。
徹はやっぱり凄い。
あの神の闘気を破るだなんて。
それに追いかけられる立場の自分もうかうかしてはいられない。
いつ、徹に負けるかもわからない。
優子を奪われるかもしれない。
自分も危機感を持たねばなるまい。
そう言った全体の活性化が番長の目論見なのかもしれなかった。
皆で料理を食べる。
もう二度と戻れない面子での笑顔がそこにはあった。
季節は冬と春の境目。
別れのシーズンは目の前だ。
「ちょっといいかな」
皆の食事も終わるかという頃、先輩が番長に声をかけた。
「なんじゃ、なんか用か」
番長はぞんざいに返す。
振られ続けて流石に愛想が尽きたのだろうか。
「ちょっと二人で話したい」
先輩は、そう言って番長を誘った。
続く




