表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/274

ブラウンモンスター

 蹴鞠が下層最初の部屋でもらった地図を元に進んでいく。

 蹴鞠の憶測は間違っていなかったらしく、下層の敵はそう強くはなかった。

 また、恵が期待したように新種のモンスターも多数出てきた。


 例えば、腕を組んで出てきた足と手の生えたクッキーのモンスター。

 上層にはいなかった敵だ。

 蹴鞠のアイアンファントムの前に瞬殺されていたが。


「こんな状況であれですが、これは出るかもしれませんね」


 恵が早速ドロップアイテムであるクッキーを齧りながら言う。


「出るだろー。メジャーな菓子だし」


 蹴鞠は当然とばかりに返す。


「呑気ねえあんた達」


 歌世が呆れたように言う。


「最近ボスとは戦ってきたのと、このダンジョンの難易度が低いのと」


 蹴鞠は伸びをしながら前を歩いて言う。


「けど今回はコトブキ君もコースケも番長君もいないのよ」


「番長? いてもいなくても一緒っしょ」


「あら。彼みたいな壁役は重宝するわよ。アイアンファントムでゴリ押せてる今はともかくね」


「まあ、わかってはいるんですけどね」


 歌世は苦笑する。


「認めたくないのね」


「はい。私にとってあいつはそーいう存在です」


「良かったじゃない。異界庁内定。安定した職業よ」


「どうでしょう。デスクワークには向かない感じの男じゃないですかあいつは」


「否定はしないけどね」


 年長者二人が喋りながら歩く後ろを、優子は恵と共に歩む。

 蹴鞠は番長を気にしているのだろうか。

 好き、ではなくても、気になる、という表現は的を射ている気がする。


「さて、そろそろボス部屋よ」


 歌世が表情を引き締める。


「アークスについての情報は伝わったわね?」


「空間の断裂を使う厄介な異常者集団」


「そういうことよ」


 蹴鞠のいっそ酷いとも言える表現に歌世は同意する。


「空間の断裂は防ぎようのない必殺の一撃よ。受けようとは思わないことね」


「番長いなくていっそ良かったな」


 蹴鞠が淡々とした口調で言う。


「コトブキ君がいれば随分楽になったんだろうけど……」


 歌世は親指を噛んで悔しげに言う。


「いないもんをアテにしてもしゃーないっすよ。自分達を信じるだけです」


「そうですね。アタッカーに先生と蹴鞠さんと私。支援役に優子さん。それで十分戦いになると思います」


 蹴鞠と恵の言葉を聞いて、歌世は目を丸くした後、徐々に苦笑顔になっていった。


「生徒に勇気づけられるとは私もまだまだだなあ。じゃあ、行くか」


 そう言って、歌世は蹴鞠に視線を送った。

 蹴鞠は頷くと、前に見えてきていた扉を開けた。


 そこに広がったのは、異常な光景だった。

 制服を着ていることから判断できたのだが、沢山のMTが、ブラウン色の何かで首から下を固められている。

 その口に、お菓子を放り込むふくよかな女性が一人。


「あら、やっと来たわね。ナンバースのエージェント」


「ナンバース……?」


 蹴鞠が戸惑うように言う。


「気にしなくていいわ」


 歌世が淡々とした口調で言う。顔にはなんの表情も浮かんでいない。


「貴女がアークスだということは大体予測がついているわ。命のやり取りになる前に退きなさい」


「嫌よ」


 ふくよかな女性はケーキをMTの口に突っ込むと断言した。


「腹がたつのよ。私は食べればすぐ太るのに、世の中には食べても食べても痩せてる連中が山ほどいる。全員肥えたら家に帰してあげる」


「そんなくだらない理由で……!」


 恵が憤るように言う。が、さっきのクッキーをその後口の中に入れたので緊迫感の欠片もない。


「私が一番苛立ってるのは貴女よ、貴女!」


 ふくよかな女性は甲高い声で言う。


「アークスの裏切り者、三笠恵。他の奴はセーブしてたからわかるけど、あんたはどうしてそんだけ食って太らないの? わけわかんないわよ。どんだけ基礎代謝が高いのよ!」


「正直体重とか意識したことないなあ……」


「え」


 仲間三人が異口同音に言う。


「晩御飯食べてないとかそういう奴じゃなかったのあの食いっぷりは」


 と歌世。


「あんだけ間食して腹出てないの?」


 と蹴鞠。


「羨ましい……」


 優子もつい同調してしまう。


「自然体が一番ですよ、皆さん。それに痩せる時は胸から順に肉が落ちると言いますし。ふくよか好きもいますし自然体が一番なんです」


 その一言に、ふくよかな女性はかちんときたらしい。

 苛立たしげに、地面を一度踏んだ。


「貴女だけは絶対に太らせてみせる、三笠恵。いでよ、カロリーの化身、ブラウンモンスター!」


 地面が盛り上がり、それは巨大なチョコレートケーキの姿を成した。

 ケーキの天辺にはろうそくが立ち、火が煌々と燃えている。

 女性はそのモンスターの胴体に乗り、ろうそくを手にバランスを取っている。


「踏み潰しなさい、ブラウンモンスター!」


 その巨体に似合わぬ素早さで、ブラウンモンスターは優子達に向かってのしかかろうと飛び上がった。



続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ