死闘の場所
さて、問題は戦地だ。
僕の速度にニムゲが対応できていないことはわかっている。
突き落とそうと思えば、それができる。
屋上で戦えば校舎に被害が出るだろう。
しかし、地上で戦えば援護に来た生徒がブレス攻撃に晒される危険がある。
どちらを選んでも被害が出る。
(まったく迷惑な奴だ)
「このまま屋上でケリをつけよう、徹」
「そうだな。関係ない生徒は巻き込めない。作戦はさっきのままだ」
流石は幼馴染。同じことを考えていたようだ。
ニムゲが炎を吐き出す。
徹のプロテクションがそれを弾くと同時に、僕は全開速度でニムゲの背後を取っていた。
相手の膝の裏に思い切り突進する。
ニムゲはバランスを崩して、勢い良く地面に転がった。
徹がその隙に距離を縮める。
「ホーリーライン」
徹の手に光り輝く剣が現れ、ニムゲの肌に浅い傷をつけた。
その傷で十分だ。
後は、僕が突けばいい。
その時、ニムゲは子供のように手足をジタバタさせた。
僕は咄嗟に回避したが、徹が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
そして、ニムゲは立ち上がり、傷口に手を当てた。
傷が消えていく。
ニムゲの一撃の重さは僕が誰よりも知っている。
なにせ、右手で払われて全身骨折をしたのだから。
繋ぎ止めたはずの勝利が遠ざかっていく。
僕は目の前が真っ暗になるかと思った。
その時、ニムゲが苦しげな呻き声を上げた。
青色の清浄な光がニムゲを包んでいる。
「なんだ、この結界は! 太陽が、太陽が俺を焼く? これが神の罠か」
サンクチュアリ。優子の得意スキルだ。その中に、ニムゲは閉じ込められていた。
「二人だけでなにしてるのよ。危ないなあ」
いつの間にか、屋上の扉の前には優子がいた。背後には緑と笹丸と恵もいる。
ニムゲの肌が溶けていく。
僕は、槍を投じた。
「一投閃華金剛突!」
放たれた一撃は、ユニコーンの速度を乗せて一閃。ニムゲの脳を貫通して飛んでいった。
起き上がろうとしていたニムゲが再度倒れる。
「このままじゃこの前の焼き直しだ! やるぞ、コトブキ!」
徹が脇腹を抑えながら言う。
「ああ、徹!」
「ホーリークロス!」
「五月雨・改!」
二人の範囲攻撃が一つ残らずニムゲの体にぶつかっていく。
細かな破片は太陽とサンクチュアリのコンビが焼いてくれる。
「覚えていろ……」
脳に直接、声が響いた。
「悪魔王も、直属の四天王も、このことを忘れないと」
その言葉を最後に、その場から敵は見事に消滅した。
「まったく水臭いじゃない。二人きりで決着をつけようとするなんて」
優子が祈りの姿勢を解いて歩み寄ってくる。
「私達は三人揃って一つなんだからね」
「六人揃って部活仲間の一年組だってことも忘れてくれるなよ」
緑が苦笑交じりに言う。
「ああ。僕は最高のチームにいるって今確信したよ」
そう言って、僕は徹に駆け寄った。
優子がヒールを唱える。
徹の乱れていた呼吸が徐々に整っていく。
「そうだなあ。優子がいないとしまんねえよな」
徹は苦笑交じりに言う。
「完勝だ」
徹の言葉に、皆微笑んだ。
「私は……なにを……」
気絶していた先輩が目を覚まし、戸惑うように壊れたカードホールドに触れていた。
続く




