進化
地面を蹴って先輩の左方向に移動する。
先輩は反応してアイアンファントムを放ってきた。
しかし、その時にはもう既に僕は先輩の背後に回っている。
槍でカードホールドを砕ける。
そう思った時、先輩の体に異変が起きた。
一対だった翼が三対まで増えたのだ。
そして先輩は羽ばたくと、上空へと飛び始めた。
「始祖鳥のホルダーが空を飛ぶ……?」
頭上から降り注ぐ羽の雨をゼロ・ストームで弾きながら、僕は戸惑いの声を上げる。
「カードの進化だ。たまにある」
そういえば徹の聖騎士のカーも勇者のカードに進化したのだった。
ゼロ・ストームをやめれば羽で穴だらけになる。
しかし、このままでは一向に事態は進展しない。
「コトブキ。お前にプロテクションをかける」
徹が言う。
「ユニコーンのホルダーならあの高さまで飛べるはずだ」
「わかった」
「プロテクション!」
徹が唱え、僕の体を六角形を連ねたようなバリアが囲む。
そして、僕も唱えた。
「アクセル、フォー」
現在僕が制御できる最速のバフ。
勝負を決める準備は整った。
「頼むぜ。ユニコーンのホルダー」
徹の言葉を背に、僕は矢のような速さで跳躍した。
先輩は羽ばたき回避しようとする。
しかしその時には、既にカードホールドの付け根を僕の槍が破壊していた。
先輩の翼が消え、地面に落ちていく。
それを、徹が受け止めた。
着地して、落ちたカードホールドのサブカード部分を確認する。
やはり、悪魔のカードがそこにはあった。
「口惜しや」
どこからともなく声が聞こえる。
「取り付いた素体は良かった。しかし、カード一枚分の魔力ではここまでか」
僕は槍で悪魔のカードを貫こうとする。
しかし、その時には悪魔のカードはサブカードスロットから抜け出て空中に浮いていた。
あちこちからカードが飛んでくる。
それらが一枚に重なった時、そこには四メートルを超える巨体があった。
ニムゲだ。
ニムゲは復活を果たした。
異界ではなく、この人間界で。
「ケーッケッケッケッケッケ」
笑い声が響く。
「これが地上か」
そう言って、ニムゲは両手を掲げる。
「これが風、これが太陽、これが空気。魔界とは格別だ」
「徹、戦えるか?」
「俺達二人が揃えば勝てない敵なんてないだろう?」
その強がりに僕は苦笑した。
「まったくだ」
ニムゲとの再戦が、始まろうとしていた。
正直、分は悪い。それでも勝たなくてはならない。
続く




