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悪魔達

 暗い廃工場の中だった。

 月明かりが差し込む中で、五人の男女が向かい合っている。

 その中でも最年長と思しき男が口を開いた。


「ご苦労だった、二号。見事にカードホールドを獲得してくれたな」


「裏ルートを辿れば簡単なものっすよ」


「四号も見事に資金を獲得してくれた」


「お安いものです」


 最年長の男は、一人、また一人とその成果を褒めていく。

 リーダー格と見て間違いないだろう。


「それに比べて三号」


 三号、と呼ばれた女は小さく肩を震わす。


「何故獲物を逃した。睡眠状態にしておけば精気を吸い続けられたろうに」


「それは……」


 沈黙が漂う。

 痛い視線が三号と呼ばれた女に突き刺さる。


「まあ、いい。今の最優先事項は全員分のカードホールドの確保だ。各々、励むように」


「はい!」


 四つの声が唱和する。

 そして、一人、また一人とその場を去っていき、最後には最初から誰もいなかったかのような静寂だけが残った。



+++



「多発している?」


 夜の公園で僕は戸惑いつつ言う。

 師匠は頷いた。


「うん。昏睡事件が多発してるんだなこれが。ここ一週間で十二件」


「尋常なペースではないですね」


 一日一件どころの騒ぎではない。


「昏睡状態に陥った者は体力を徐々に失い、痩せ細っていっているそうだ。共通点は皆、財産や私物を事件の前後に失っていることだ」


「……同一犯の仕業だと?」


「どうだろう。それにしてはペースが早すぎる」


「ですよねえ」


 あのシーンを思い出す。

 ニムゲがカードと化し地上へ逃げ去ったシーン。

 あの時五月雨・改を打ち込む判断力があったなら、事件は防げたのかもしれない。


「とりあえずナンバースは一人一人の交友関係を洗ってる。私に任されたのは番長君の件の犯人探しだ」


「番長も体力を失い痩せ細っていくんでしょうか……」


 あの逞しい番長が痩せ細る。そんな姿はあまり見たくない。


「いや、それがだね。目を覚ましたケースは番長君だけなんだ。経過も良好だよ。数日内に学校に復帰するんじゃないかな」


「番長の意志力が悪魔のカードに勝ったと?」


「もしくは、情けをかけられたかだ。悪魔の誘惑はそんなに安くはない」


「情け、ですか……」


「その仮説を前提に考えると、犯人は番長君に親しい者ということになる」


 僕は口を噤んだ。


「蹴鞠君は金に困ってるみたいだったね」


「先輩を疑うんですか?」


 僕は半ば憤慨しながら言っていた。

 いくらなんでも仲間を疑うなんてやりすぎだ。


「彼女の父親が闇金融から借りた金が綺麗さっぱり返済されていたことを知っても君は怒っていられるかな?」


 僕は絶句する。

 言葉を失うとは正にこのことだ。


「とりあえず、蹴鞠君には話を聞かねばなるまいて。隠れ異界でも知ってるのかもしれないしね」


「その役目、僕にやらせてください」


 気がつくと、僕は言っていた。


「先輩の無罪を、僕が証明してみせます」


「言ったな?」


「言いました」


 師匠は暫し難しい表情で黙り込んでいたが、そのうち諦めたように溜息を吐いた。


「わかった。頼むよヒーロー」


「ありがとうございます!」


 事件は進行しつつある。

 ただ、番長がもしも情けをかけられて目を覚ましたというならば。

 犯人は先輩か不良二人ぐらいしか思い当たるフシがないのも確かだった。


 もちろん、そうであってほしくはないとは思うが。



続く

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