サキュバスのホルダー
放課後、僕らは部室に集まると、番長の見舞いに病院に移動した。
部屋を訪ねると、番長は既に上半身を起こして目を開いていた。
「おう、心配かけたみたいで悪かったのう」
「心配しましたよ」
「昏睡状態って言うからどんな喧嘩をしたのかと」
不良二人がベッドの傍に駆け寄る。
その後に、僕らは続いた。
「それがのう。前後の記憶があまりないんじゃ。わかっていることは、これじゃ」
そう言って、番長は情けなさげに通帳を取り出した。
順調に貯まっていた貯金は、ゼロになっている。
「覚えておらんのだが引き出したらしく、覚えておらんのだがなくしたらしい。一体なにがあったんじゃろうのう」
「生きていればまた貯まるわ」
師匠が励ますように言う。
「そうじゃのう……」
「どんな夢を見ていたの?」
番長は師匠の質問にしばし考え込んでから、答えた。
「楽しい夢じゃった。全てが自分の思い通りになってリアリティもある。まるで現実の延長にあるかのような世界。できるなら、ずっとあちらの住人でいたかった」
この手の話に、僕は覚えがある。
優子を狙った、悪魔のホルダーの使う手口だ。
師匠に視線を送ると、わかっているらしく、一つ頷いてみせた。
「体力を消耗したりはしていない?」
「それがの。立つ体力もないんじゃ」
そう言って番長は苦笑する。
「まるでサキュバスに魅入られたみたいね」
師匠は淡々とした口調で言う。
サキュバス。夢魔。寝ている人間から精気を奪う者。
「そうじゃのう。サキュバスのホルダーの仕業なのかもしれん」
番長は真面目な表情で言う。
「まあ、俺は今回は役に立てそうにない。体力の回復が第一じゃ」
「大丈夫よ。多分今回の事件は長引くし、それはMTの仕事じゃないわ」
「長引く……?」
「ええ。多分きっと、長引くんだわ」
師匠はそう、確信を持って言っていた。
「はい、花」
そう言って先輩がぶっきらぼうに番長に花束を突き出す。
番長はそれを受け取ると、最初は微笑んでいたが、困ったような表情になった。
「いける物がない」
「しゃーないわね。そこのペットボトル貸しなさいよ。水入れてきてあげるから」
そう言って、ペットボトルを受け取ると、先輩は部屋を出ていった。
「まだ聞きたいことはあるかの? 歌世先生」
「最後に記憶があるのはいつ?」
「教室を出たところじゃの。そこからの記憶が曖昧じゃ」
「なら、犯人はおのずと絞られる」
師匠は滑らかに口を動かす。
そして、普通なら言い辛いだろうことを滑らかに紡ぎ出した。
「学校の関係者の誰かだわ」
続く




