暗躍する影
三ヶ日は修行は休みだ。
そんな一般人みたいなことを言い出した師匠のおかげで、三ヶ日は幼馴染三人で楽しく過ごせた。
僕と徹が家庭用ゲームで対戦し、観戦している優子がたまに混ざる。
そんな些細な事でも僕らは十分に楽しめた。
師匠と再会できたのは、一月も四日の深夜だった。
「いやあくたびれた。忙しい三ヶ日だったよ」
師匠は俯いて、コーヒーの缶を揺らしながら言う。
「やっぱりですか」
「感づいていたかい?」
「ええ。ニムゲの放ったカードの件でしょう?」
僕もあれは気になっていたのだ。
あの一枚一枚がもし悪魔のカードなら。
この世界に混乱を巻き起こすのは必至だ。
「あれは悪魔のカードだったんじゃないかと私は……というよりナンバースは思っている」
「僕も同意見です」
「カードホールドを持たない人間が持つ分には無害だが、最近では裏ルートでもカードホールドが流通している。あまり楽観視はできない」
「なにかヒントは掴めました?」
「なんにも。警察犬も使ったけど駄目だった」
そう言って、師匠は投げやりに缶をゴミ箱に投げ捨てる。
乾いた音をたてて缶はゴミ箱に収まった。
「しばらくは情報収集。地道な仕事だ。幸い、私は教師だから、学生同士の人間関係については調査がし易い」
「学生が悪魔のカードを使うと?」
「誘惑に負けたら使うだろうね。私はね、思うんだよ。異界という存在そのものが誘惑なのではないかと」
「異界が、誘惑?」
「だって基本的に自分の思い描く場所が映し出されて、宝もある。そりゃ、潜ろうって流れになるわな」
「じゃあ、僕達は数十年かけて誘惑され続けてきたと?」
「そうなるね。果てしない話だ」
そう言って、師匠は伸びをして立ち上がる。
「悪魔王という存在がいるらしい。四天王も残り三体いる。我々は強くならなければならない」
「修行、ですね」
僕は微笑んで言う。
「望むところだって表情だな。主人公っぽくなってきたじゃないか」
「まだまだ脇役ですよ」
そう言って、僕はカードホールドにユニコーンのカードを差し込んだ。
+++
「ねえ、夢を見ない?」
「夢、じゃと?」
「そう。夢。どんな夢でも見せてあげる。私が恋人の夢でも見せてあげてもいいわよ」
「それは……流石に俺を馬鹿にしとらんか」
「別の誰かでもいいわよ」
「お主が嫌とは言うとらん」
煮え切らない男だなあ、と男性に話しかける女性は思う。
「よかろう。試しに一度見てみる」
「気に入ったらずっと夢の世界にいてもいいわよ。その間の問題は私が片付けておくから」
「夢は所詮夢じゃ。現実には勝てん」
「果たして、そうかしら」
悪魔めいた笑みを女性は浮かべる。
男性――番長が昏睡状態で見つかったのは、その翌日のことだった。
続く




