漆黒の闇に差す光
僕と徹は番長の横に並んだ。
「プロテクション」
徹が唱えると、六角形が敷き詰められたような透明な壁ができあがる。
「ゼロ・ストーム!」
僕は槍を高速回転させ、氷を弾く。
番長の様子がおかしい。
よろける彼の腕を掴んで立たせる。
「駄目じゃ、眠い……」
そうか、恐竜は寒いと冬眠するのか。
それも狙ってのブレス攻撃ならば、相手も中々したたかだ。
こちらも守ってばかりではない。
この部の二人のスピードスターは、ブレス攻撃を回避して既にニムゲに対して反撃に移っていた。
左右から二つの流星がニムゲに襲いかかる。
一人は師匠、一人はコースケ、共にアクセルテンの使い手だ。
師匠は槍を回転させながら、コースケは金棒を振りかぶって、相手に襲いかかった。
どちらかの攻撃が当たるだろう。
そんな目算は見事に打ち破られた。
ニムゲは二人を両手で鷲掴みにしたのだ。
師匠は槍をつっかえ棒にして辛うじて自由を確保し、コースケは見事に捕まった。
「パワード!」
唱えて、コースケは腕の拘束を引き剥がそうとする。
そのまま、壁に向かって投げつけられた。
壁に叩きつけられそうな彼を慌てて移動して受け止める。
「僕のことは気にしなくていいよ。攻撃に専念してくれ、ユニコーンのホルダー」
「そうだ。後衛の護衛も俺に任せろ。お前は攻撃に専念しろ」
徹も言う。
なるほど、僕、師匠、コースケのスピードスター三人がメイン火力という荷を背負わされたわけか。
「アクセルフォー」
僕は唱えて、地面を蹴る。
そして、槍を相手の眉間に突き刺そうとした。
しかし、それは指一本で阻まれた。
ニムゲは師匠を投げ飛ばし、落下していた僕を空いた左の手で思い切り殴ってくる。
体に電流が走ったかのような衝撃の後、骨の折れる鈍い音がした。
「仕方ないわね」
そう言うと、師匠はカードスロットのメインカードとサブカードを入れ替えた。
すると、師匠の背中に炎の翼が生えた。翼の後ろには円状の炎が浮かんでいる。
「トータルヒール!」
師匠が唱えて羽を一本投じる。それが刺さると、僕の怪我は回復した。
「小蝿がぶんぶんと鬱陶しい」
嘲笑うように言うと、ニムゲは地面を殴り始めた。
地響きと地割れが起き、皆体勢を崩す。
そこに、今度は火炎の息。
プロテクションの壁で徹達は守られているが、僕と師匠とコースケは無防備だ。
師匠は空を飛び、僕とコースケは壁と天井蹴って回避した。
今度は三人がかりの攻撃。
二人が捕まっても、一人は届く。
その中でも、僕は一番の速度でニムゲに肉薄していた。
ニムゲの顔に焦りが混ざる。
ニムゲは乱暴に右手を振り払った。
僕は槍でそれを受け止めながら吹き飛ぶ。
そこから、アクセルテン組の連携攻撃。
それは、再び掴まれて無駄に終わった。
かと思われた。
徹がいつの間にか、前に出ていた。
「ホーリーライン!」
光り輝く剣が、大悪魔の体に光の線を作る。そこからは黒い血が溢れ出した。
斬りつけるために跳躍していた徹は、あえなく捕まえられる。
「さて、どうしてくれよう。潰してハンバーグにでもしてやろうか」
「お前の負けだ」
徹は微笑んで言う。
そう、さっき攻撃を止められたのは厚い皮のせい。
それさえ斬り開かれたなら、ユニコーンの槍で柔らかい内部を突ける。
「アクセル――ファイブ!」
僕は唱えると、自分でも制御不能な速度で光のライン向かって槍を突いていた。
「投華螺旋突き!」
槍がニムゲの頭部に深々と突き刺さる。
「この速度!」
コースケが感心したように言う。
「流石ユニコーンのホルダーね」
師匠も満足げに言う。
ニムゲの手から力が抜け、捕まった仲間達も解放される。
ニムゲは一歩、二歩とよろけながら後退すると、その場に地響きをたてて倒れ込んだ。
その体から、黒い霧が生まれ始める。
それが消えた時、ニムゲは物言わぬ死体となっていた。
ワープゲートが出現する。
「やーっと地上へ帰れるか」
緑がやれやれといった感じで言う。
彼はいつの間にか土壁を作り出し、支援二人を守っていた。
「強敵だったわね。けど、悪魔王について聞きそびれたのは悔やまれるわ」
「すいません。チャンスはこれしかないと思ったので」
「判断は正しいわ、コトブキ君。君のおかげで全員生きて帰れる」
天から光が差して、闇の異界を照らしていく。
その光の中から、新しいカードホールドが三つ、白紙のカードが十枚僕の手に落ちてきた。
「高く売れそうじゃのう……」
今にも寝そうな番長が言う。
それを、徹は抱きかかえてしっかりと立ち上がらせた。
「危ない!」
師匠はそう言って、ニムゲの前にいた僕を突き飛ばした。
尻もちをついた僕は見た。
ニムゲの体が禍々しい闇を放ち、分解される様子を。
分解されたニムゲは複数枚のカードとなってワープゲートの外に逃げていった。
「ケケケケケ……ケーッケッケッケッケ」
笑い声が響き渡る。
まだ、悪魔達は僕らの様子を観察しているようだ。
「誰がなんと言おうと私達の勝ちよ」
師匠は胸を張って言うと、僕に手を差し出した。
「帰りましょう。私達の世界へ」
「そうですね。帰りましょう」
僕らは頷きあうと、ワープゲートに向かって歩き始めた。
ただ一人、手元のカードを眺めてぼんやりとしている人物がいた。
先輩だ。
「どうしたんですか? 蹴鞠先輩」
「ううん。なんでもない」
そう言ってポケットにカードをしまうと、先輩も歩き始めた。
「初日の出見れるかな」
優子が呑気な口調で言う。
「見れるさ。日の出はまだ先だ」
答えるのは徹だ。
幼馴染同士の阿吽の呼吸がある。
嫉妬する反面、安心した。
なんにせよ、無事に徹が帰ってきて良かったと思う。
続く




