共闘
「ホーリークロス」
徹が呟いて剣で十字を切ると、それは大きな光となって敵の大軍を飲み込んだ。
僕は穴を開けるのも忘れて一瞬唖然とした。
実力差を埋めた、と徹は言った。
それは確かなのかもしれない。
敵は川が割れたように中心部が空白地帯となっていた。
僕達の間にあった壁に人一人が入れる穴が開いた。
中に入って、徹と並び立つ。
「相当修行したんだな」
「まあな」
なんだろう、この安心感は。
徹がそこにいるというだけで安心する。
古代から用意されていたかのように、その場所には居心地の良さがある。
「ホーリークロス!」
「五月雨・改!」
範囲攻撃で敵の大軍を一掃する。
そして、敵の姿はついになくなった。
「聖騎士のカードってそこまで強いのか?」
緑が戸惑うように言う。
「今の俺は聖騎士じゃない」
徹は淡々とした口調で言う。
「勇者だ」
「勇者……」
緑がオウム返しに呟いて言葉を失う。
勇者のホルダー。人間種のホルダーの頂点に立つカードだ。
「どこで手に入れたんだよ、そんなカード」
僕は問う。
「戦い続けているうちにカードが進化した」
徹はやはり、淡々とした口調で言う。
「この数ヶ月、異界で寝泊まりしていた。浅い睡眠を取りつつ戦い続けた。その末に、カードは俺に応えてくれた」
「異界で寝泊まり……」
優子が呆れたように言う。
「無茶したわねえ。寝込みを襲われなかったのかしら」
とは師匠。
「何度か攻撃を受けて目が覚めた。正直生きて戻ってこれたのは運が良かった」
「なんでそんな無茶するのよ!」
優子が怒鳴る。
大事な幼馴染だ。自分の体を粗末にして怒る気持ちはわかる。
「自分を許せなかった。コトブキを傷つけた自分を」
徹はそう言って、剣を鞘に収める。
「あらためて言う。すまなかった、コトブキ。俺は、お前に酷いことを言った」
僕は微笑んだ。
これは、あらためて友達になろうというサインだ。
それを無下にできるわけがない。
「いいよ。僕達友達だろ? 長い付き合いの中にはそういうこともあるさ」
僕は手を差し伸べる。
徹は微笑んで、その手を握った。
徹の手は、マメが潰れていた。
「ありがとう」
「ボス戦を前に頼りになる仲間が増えたわね」
師匠は微笑む。
「そうか。ボス戦には間に合ったか」
「ここからが本番じゃぞ。気を引き締めていこう」
番長が言って、歩き始める。
「これで幼馴染が三人揃ったね」
優子が上機嫌に言って、その後に続く。
「地上に帰ったら沢山喋ろうよ。話したいことは沢山ある」
「ああ、そうだな」
僕の言葉に、徹は頷いて言葉を続ける。
「なんだかやっと、帰ってきたって実感が湧いてきたよ」
そう言うと、徹は恵と共に優子の横を歩き始めた。
姫を護衛する騎士のように。
僕は苦笑して、その後に続いた。
徹と共闘できる。こんなに嬉しいことはない。
続く




