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異形に囲まれて

 槍の穂先の光を頼りに、石造りの建物の中を進んでいく。

 生温い空気が相変わらず気持ち悪い。

 そして、時折遠くから聞こえてくる笑い声。


 まるで、魔物に馬鹿にされているような感覚を覚える。


「なんか気が滅入る異界だのう」


 先頭を進む番長が言う。


「見張られてるわね。統率が取れた異界と言えるでしょう」


 腕を組んで師匠は言う。


「魔物達に統率……買いかぶり過ぎじゃないのかい歌世ちゃん」


 こんな時でもコースケは微笑み顔を崩さない。


「そうね。考えすぎかも。私も結構気が滅入ってるから」


「らしくない弱音だね」


「責任者だからね。気楽なあんたとは違うのよ」


「はは、歌世ちゃんが切腹する時は僕が介錯してあげるよ」


「ありがとう。その時はあんたも巻き込んで死んでやるわ」


 そう言って、師匠は舌を口の外に伸ばした。

 Y字路に辿り着いた。


「右に行くか、左に行くか。どうするかのう」


「とりあえず左から進みましょ」


 そう提案したのは師匠だ。


「根拠はなんじゃ?」


「勘、と言ってもいいんだけど。右の道の方が地面の蔦が踏み荒らされてる。左の道の方が安全だと思う」


「なるほどのう」


 そう言って、番長は左の道を歩き始める。

 そのうち、一行は大広間のような場所の入口に辿り着いた。

 奥には、宝箱がある。


「こんな異界にも宝があるのか」


 番長が感心したように言う。


「……怪しいなあ」


 師匠が考え込む。

 そして、履いている靴を片方、部屋の中に投げ入れた。

 その途端に、魔物がワラワラ集まり始めた。


 二股の槍を持った悪魔の群れだ。


「この程度の数なら殲滅できる。行くぞ!」


 そう言って、番長が中に入り、空を飛び始める。

 そして、魔物の上空で旋回して、風の渦を作り出した。


「サイクロン!」


 風の渦に悪魔達は飲み込まれて吹き飛ばされる。


「五月雨・改!」


「アイアンファントム!」


 僕と先輩も追撃する。


「行くぞ!」


 緑が言って、中に入る。

 その瞬間、周囲から仲間が消えた。


 居るのは、醜悪な魔物だ。

 魔物達はキィキィ鳴き、互いに鉢合わせたことを驚くように硬直している。


 周囲にいた皆はどこに行った? 守るべき優子はどこだ?

 一瞬の躊躇いの後、目の前の魔物に襲いかかった。


 魔物は槍を繰り出し、僕の一撃を受け止める。

 受け止めた? 僕のユニコーンの速度の一撃を?


 翼の生えた魔物が、羽を一斉に発射する。それを、僕は避けた。

 金棒を持った魔物が追いついてくる。


 一刻も早く皆と合流しなければ。

 その時のことだった。


 後方にいた魔物が、結界を張った。

 清浄な青い光の壁。

 サンクチュアリの結界だ。


 それで、全てを察した。

 槍を翳す。

 この異界を潰すことはできなかった。

 けど、罠の解除ぐらいはできるはずだ。


 すると、醜悪な魔物達の姿が変わり、いつも見た仲間達の姿に変わっていた。


「全員、幻覚を見たようね」


 師匠が溜息混じりに言う。


「コトブキが気づいてくれて良かったよ」


 そう言って、優子はサンクチュアリの結界を解く。

 魔物が使いようのなない聖なる結界。それが僕に答えを教えてくれた。


 いつの間にか周囲の魔物は潮が引くように消えてしまっていた。


「ケケケケケケ……ケーッケッケッケッケッケ」


 高笑いが響き渡る。


「どこまでも馬鹿にしやがって!」


 緑が怒り心頭といった感じで手裏剣を投じる。

 しかし、今度は獲物に弾かれたようだ。

 笑い声は徐々に、徐々に、遠くなっていった。


 番長が歩いていき、宝箱を開ける。

 中には、なにもなかった。


「この異界はどこまでも人を馬鹿にしとるのう」


「癖が強い異界ね」


「歌世ちゃんと同意見」


「ボスの顔が見てみたいものです。危うく優子さんを殴っちゃうところでした」


 恵が溜息混じりに言う。


「今後、宝物は全て諦めよう」


 番長が言う。

 全員、異論はなかった。

 この異界はなにかがおかしい。

 監視する影。統率の取れた魔物達。異界に精通したアークスでも閉じれない現状。そして、聖なる光以外は飲み込んでしまう特性の闇。


「ここのボスは、多分今までのボスとは違う気がする。皆、注意を忘れずにね」


 師匠は先生らしく、諭すように言った。


「上層でこれなら下層はもっと性格の悪い罠があるんだろうな」


 緑が投げやりに言う。


「跳ね返してやりましょう。貴方達にはそれだけのポテンシャルがある」


「歌世ちゃん、先生みたいだね」


「……先生なんだけどね」


 溜息混じりに言う師匠に笑いながら、皆は番長を先頭に再び歩き始めた。

 この仲間達がいれば大丈夫だ。少なくとも、ボスに遅れを取ることはない。今はそう思えた。



続く

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