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不気味な異界

 一同、神社の鳥居の前に到着した。

 近所の大きい神社をあえて避けたのだがそれでも階段にはある程度列ができている。


「結構人いるっすね」


 と、笹丸。


「新年だから皆張り切ってるんだろ。初日の出はどうする?」


 と緑。


「初日の出かあ、しばらく見てないなあ」


「私もだなあ」


 優子が言って師匠が追随する。


「それじゃあ初日の出も皆で見ますか」


 僕は正直、皆でプライベートで集まる今の状況にテンションが上がっていた。

 その時のことだった。

 悲鳴とざわめきが起こった。


 師匠とコースケが素早くカードホールドにカードを挿し、それぞれエルフと鬼の姿になって高々と跳躍して人混みの中を移動する。

 僕も慌てて、それに続いた。


 なにかに怯えるように、人混みには穴が空いていた。

 その中央には光の渦。

 異界へのワープゲートだ。


「そうか、異界は心象風景。人々の思念が集まる場所は危なかったか」


 師匠が焦った様子で言う。

 そして、周囲に向かって声をかけた。


「大丈夫です。我々はプロの探索員です。この異常事態はすぐに解決できます」


「探索員?」


「マジで?」


「マジだろ、エルフと鬼だぜ」


「けど大量に魔物が出てきたら?」


 周囲はざわついている。


「コースケ。異界を閉じれるか?」


 コースケは暫く光の渦に手を翳していたが、首をひねった。


「おかしいな、閉じれない。手順はあってるはずなんだけど、何度繰り返しても駄目だ」


「イレギュラーな異界……ってことか」


 番長達残りの面子が遅れて追いついてきた。


「これは!」


 番長がワープゲートを見て絶句する。


「よりによって人が混んでるとこに出たか」


 緑の口調に焦りが混ざる。


「甘酒飲んで呑気に過ごしたかったですね……」


 恵が平和な日常を名残惜しむように言う。


「甘酒は異界を攻略してからだ」


 師匠が断言する。


「行くよ。放置しておくには危険すぎる」


「了解じゃ」


 そう言って、番長は腕まくりした。


「俺が最初に入る。三分したら入ってきてくれい」


「笹丸君は留守番を頼むわ。人が面白がって入り込まないようにゴリラの力でせき止めて」


 師匠の指示に、笹丸は素直に頷いた。


「それじゃ、行くぞ」


 そう言って、番長が中に入った。

 三分経って、笹丸以外のメンバーが中に入っていく。

 中は、暗闇だった。


 生暖かい湿った空気が気持ち悪い。

 無臭なのがせめてもの救いか。


「困ったことになった」


 番長が言う。


「そのようね」


 暗闇の中で表情は見えないが、師匠が言う。


「と言うと?」


 なにが困っているのかわからなくて僕は問う。


「まず一つ、灯りがない。二つ、帰りのワープゲートがなくなっとる」


 背後を振り向く。

 確かに、いつも異界に入った時には存在するはずのワープゲートが存在しない。


「灯りならライターがあるから使ってみるかね」


 師匠がそう言うと、プラスチックのボタンを押す音が周囲に広がった。

 火はついた。しかし、まるで闇の中に切り抜かれたように周囲は照らされなかった。


「闇に光が飲み込まれてる……?」


 コースケが呟くように言う。

 その口調にはいつもの軽薄さがない。至って真面目だ。


「神の闘気」


 番長がそう言うと、その体が白く輝いた。

 するとその光は周囲を照らし、面々の表情を見れるようになった。


「イレギュラーな異界、か」


 師匠は顎に手を当てて考え込むように言う。


「なんだか不気味ですね……光を飲み込むだなんて」


 優子が不安げに言う。

 僕もユニコーンの槍を高々と掲げて、力を込めてみた。

 すると、その切っ先に松明のように光が灯り、前方への道を照らした。


 その時のことだった。


「ケケケケケ、ケッケッケッケッケ」


 甲高い笑い声がする。

 それも一匹のものではない。複数匹だ。


 緑が手裏剣を投げた。


「ケケケケケ……ギャンッ」


 絶叫とともに、笑い声は終わった。

 しかし、僕らの心に不安と恐怖心を残したのは確かだろう。


「とにかく、前に進もう。前にしか道はない」


 師匠が言う。

 本当に道はあるのだろうか。

 ボスを倒しても帰りのワープゲートが発生しなかったら?


 全員。そんな不安を抱えていたと思う。

 それを避けるように、僕らは早足で歩き始めた。



続く。

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