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クリスマスイブ中編

 クリスマスイブの当日がやってきた。

 今年はホワイトクリスマスだ。

 空からはちらほらと雪が降っている。


 コートに身を包んで、上機嫌で家を出る。

 待ち合わせ場所に行く途中に、コースケと遭遇した。


 コースケは片手を上げて、いつもの微笑み顔でいる。


「やあ、コトブキ君」


「ああ、コースケか。メリークリスマス」


「メリークリスマス。めでたいことがあってね。君に分かち合ってほしいと思ったんだ」


 めでたいこと?

 僕は警戒した。

 アークスのコースケにとってめでたいこと。それはつまり、師匠の所属するナンバースへの不利益だ。


「アクセルイレブンを使いこなせるようになったんだよ」


「それは……めでたいな」


 師匠は訓練ではアクセルテンまでしか使ったことがない。

 アクセルは速度を向上させるスキルだ。

 その後につく数字が高ければ高いほど効果は飛躍的に上がっていく。


「で、試しに君と戦ってみようということになった」


 コースケがそう言った瞬間、周囲の景色が激変した。

 緑と赤の派手なブロックが並び、大きな飴やチョコレートが飾られている。クリスマスツリーが佇み、白い雲のような綿がデコレーションにつけられている。


「ここはクリスマスを前にした子供が作った異界だ。僕は結構気に入っている」


「仲良くしたいんじゃなかったのか?」


 僕は内心焦りながら言う。

 コースケと戦う。その未来を、僕は避けたかった。


「仲良くしたいよ。それ以上にムラムラくるんだ。歌世ちゃんがユニコーンのカードを託した相手。確かに強い。僕と君とどっちが強いんだろうって、いつも考えてた」


 コースケは微笑む。


「美味しそうな君が悪いよね」


「そうかい」


 溜息を吐く。

 結局は、こうなったか。

 後は命のやり取りにならないように注意するだけだ。


 もっとも、相手が最初から命を取りにこない保証はないのだが。

 カードホールドのメインスロットにユニコーンのカードを差し込む。

 その瞬間、僕は角が生えた獣人の姿になっていた。


「悪いが先約がある。手早く終わらせてもらう」


「どうかな。君と僕は結構実力伯仲だと思うぜ」


 コースケは微笑みを崩さない。

 僕はとりあえず八割程度の力で地面を蹴った。


「アクセル、イレブン」


 コースケが視界から消えた。


「遅いよ」


 声は背後から聞こえた。

 振り返り、相手の振り下ろした手を全集中力を使って受け止める。


「虚しいな。極めてしまえばユニコーンのホルダーもこんなものか」


 着地し、距離を取る。

 僕はその一言で、カチンときた。


「舐めるなよ。ここからは全力でお前を無力化してやる」


「そう来てくれないと困る」


 真顔だったコースケは再び微笑んだ。




+++



 優子はショッピングモールのバス停で座っていた。

 コトブキがもうすぐバスに乗ってくるはずだ。

 白い吐息が口から漏れる。

 正直、中で待っていれば良いのだが、今は一刻も早く会いたい。


 コトブキと恋人になってから初めてのクリスマスイブ。

 今日はとても素敵な日になるだろうと、そう思った。

 けれども、一時間待っても、二時間待っても、コトブキは来なかった。



+++



 僕の四連撃の拳をコースケは見事に全て逸らす。

 そして、反撃の蹴りを僕は紙一重で躱した。

 速い。認めるしかないだろう。師匠より、速い。


 さっきから攻撃の応酬だ。コースケと僕の速度は同等と言えるだろう。

 技術にもそこまで差はない。


 だから、集中力を先に切らしたほうが負けるだろう。

 高速移動を繰り返すことは極度な集中力を消耗する。


 何時間経っただろう。そんなことすら、今は想像もつかない。

 相手の目の前の攻撃に対応するのに手一杯だ。


「ここまで夢のような時間を過ごせるとは思わなかった」


 距離を置いて、コースケは微笑み顔で言う。


「そうかい。僕にとっちゃナイトメアだけどな」


「決めさせてもらうよ。パワード」


 パワード。腕力を向上させるスキル。

 その効果で、敵のボスの攻撃を受け止めるコースケの姿を僕は何度も見てきた。


「そして、アクセルトゥエンティー」


 その呪文は、自身の強化には使われなかった。

 それがわかったのは、僕の足がやけに軽いと気がついたからだ。


「裏技みたいなもんでね。アクセルは本来は支援スキルだ。自己強化の他に他人にもかけられる。歌世ちゃんなんかはすぐに自身のアクセルで上書きするんだけど、君はそうもいくまい?」


 そう言って、コースケは金棒を呼び出す。


「楽しかったよ。僕とここまで張り合えたことを誇ってくれ、ユニコーンのホルダー」


 コースケは今、一線を越えた。

 凶器を今まで二人して使わなかった。それは穏便に終わらせようとする暗黙の了解のようなものだと思っていた。

 それを破るのならば、僕も奥の手を使うしかないだろう。


「一線を越えたな、コースケ」


「ああ、そうだね。この勝負を曖昧な決着で終わらせるのは残念だろう?」


「後悔させてやる」


 僕は唱えた。


「アクセル、スリー」


 コースケの微笑み顔が崩れ、その瞳が驚愕に見開かれた。



続く

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