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クリスマスイブ前編

「そうかー、コースケも案外脇が甘い」


 緑に全てを話したと聞いた師匠は、夜の公園でそう呟いた。


「知られたとなると少しやり辛くなるな」


 師匠の言葉に僕は戸惑う。


「と言うと?」


「ナンバースの特権乱用を知られるわけだからね。緑君からは冷めた目で見られるようになるかもしれない」


 拗ねた表情で師匠は言う。

 僕は苦笑する。


「考えすぎですよ」


「いいや、そうだ。これも全部コースケのせいだ」


 面白くない。師匠の表情はそう物語っている。


「本当に嫌いなんですね、コースケのこと」


「まあ、普通に因縁の仲だからねえ……」


 ナンバースとアークスのスピードスター代表と言ったところだろうか。


「で、コースケはなんて言ってたの?」


 頬杖をついて、缶コーヒーを振りながら、師匠は僕に視線を向ける。


「仲良くしたいって」


「はんっ」


 師匠は鼻で笑う。


「甚だ滑稽だわ」


「本当、面白くないんですね」


「私の縄張りに土足で上がってきたようなもんだからね。そりゃー面白くないさ」


「和解の道はないんでしょうか」


 師匠はすわった目で僕を見る。


「あまり気を許しすぎないことだ」


 冷たい口調だった。


「奴はアークス。いつ敵になって相まみえるとも知れない」


「番長はコースケを気に入ってるみたいですけどね」


「そうなんだよなー。上手く溶け込み始めてる。これは浸食だよ」


 嘆くように師匠は言った。


「ま、仲良くしたいって言うんならその言葉を信じるしかないか。奴も特権に守られている。退学させることはできない」


「師匠でも無理ですか」


「上の方の問題だよ」


 天を仰ぎ、嘆くように言う。

 僕もつられて、空を仰いだ。

 銀色の月が輝いていた。


 コースケの、仲良くしたいという言葉に嘘はない。そうと感じられるまで、一週間ほどの時間を要した。

 コースケは善良な部員として部の戦いに貢献し続けた。


 そのうち、未討伐のボスがいなくなり、異界探索の回数も徐々に減っていった。

 クリスマスイブが、近づいてきた。


「コトブキ君ー」


 ある日の放課後、先輩が教室にやってきた。

 部屋にいる生徒の数はまばらだ。

 その全員が、好奇心を篭めて僕らを見ている。


「ちょっと話、いい?」


「いいですよ、先輩」


 そう言って、廊下に出る。


「その、さ」


 先輩は俯いて、その後窓の外に視線を向けた。

 落ち着かない様子だ。


「クリスマスイブなんだけどさ。土曜日じゃん。空いてる?」


「すいません、埋まってますね」


「そ、そっか。それは、友達と遊びに行くとか?」


「いえ……その、恋人と」


 照れ臭いな、と思いながらも言う。

 先輩は一瞬息を呑んだ。


「……いつの間に?」


「ほんの数ヶ月前です」


「そ、そっか。それじゃあ映画とかもう誘えないな。残念だ」


「そうですね。そういうのは、遠慮してもらえると助かります」


「そっかー、良かったじゃんコトブキ。部活ばっかだと思ったらやるべきこともやってるんだな」


 そう言って、肘で突いてくる。


「はい。先輩もいい人見つかると良いですね」


「私は軽い女じゃないぞっと」


 そう言って、跳ねるように二歩後方に移動した。


「じゃ、部活で!」


 そう言うと、先輩は駆けていった。

 なんだったんだろう。

 クリスマスぼっちが嫌だったのだろうか。


 先輩は友達が多いタイプにも見えない。それを思うと、誘いに付き合えないのは多少罪悪感が募る。

 今度優子に相談してみるか。そんなことを思った。


 優子と交際しているという実感はまだ薄い。それは、僕らの関係が幼馴染の延長線上にあるからだろう。

 僕らは今までとなにも変わらず、自然体でいる。

 それが良いことなのか悪いことなのかわからない。


 ただ、いつかなにかがきっかけでそれが別のなにかに変わるかもしれない。

 そんな予感がしている。


 クリスマスイブが近づきつつある。

 僕は窓の外に視線を向けて、今にも雪が振りそうな曇り空を見ていた。



続く

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