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コトブキ対緑

 程なく緑は見つかった。

 ゲームセンターの音ゲーを一心にこなしている。

 僕は躊躇いつつも、話しかけた。


「後にしてくれ」


 緑は言う。


「今はこれをクリアしたい」


 ということなので、優子と共に待つ。

 緑が遊んでいるゲームの画面には目まぐるしい勢いでバーが落ちてきている。

 それを、緑は冷静に対処していった。


 結果、評価はSランク。

 いつの間にか集まっていた見学勢からどよめきが起こった。


「で、なんだよ」


「アークスについて説明しに来た」


「……」


 緑は拗ねたように視線を逸らす。


「コトブキ」


「なんだ?」


「屋上に出れるか?」


「ああ、いいよ。優子はちょっと待っててくれ」


「わかったよ」


 二人して、屋上に出る。

 そこは、広い駐車場だった。


「コトブキ」


「なんだ?」


「説明する気になったのか」


「うん。知っておかないと緑は調べ続けるだろうと思って」


「そうか。一つ、頼みがある」


「なんでも言ってくれ」


「俺と戦え」


 僕は言葉を失った。


「対多なら確かにお前に一日の長がある。けど、タイマンならわからないぜ」


「それで気が済むなら構わないけど……」


 忍者のホルダーの緑。戦ってみたらどんな展開になるのだろう。

 素早さを極めたユニコーンのカードに勝てるとはとても思えないが。


「言ったな。舐めてかかると痛い目を見るぜ」


 そう言って、緑は二度地面をつま先で叩いた。

 二人して、ポケットからカードを取り出す。

 そして、カードホールドのメインスロットにそれを差し込んだ。


 次の瞬間、僕は獣人の姿に、緑は忍者装束に姿を変えた。

 僕は頭の角に触れて槍を呼び出し、手に握る。

 そして、八割ぐらいの速度で移動した。


 駐車場のナンバーが書かれた壁を蹴って緑の背後に回る。

 緑には僕が横に移動したようにしか見えていないはず……だった。

 しかし、緑ははっきりと背後を見て、僕の繰り出す槍を短刀で受け止めた。


「気配探知スキル。忍者の基本的なスキルの一つだ。これで、お前の居場所はいつでも探れる」


 二人して、押し合う。


「簡単に終わると思ったか?」


「くっ」


 一時、後方に退避する。


「分身の術!」


 緑があっという間に五人に増える。

 全ての分身に影がある。完全な分身の術。


 その全員から、一斉に手裏剣が投じられた。

 その全てを、持ち前の素早さを総動員して叩き落としていく。


「どうした、ユニコーンのホルダー! 俺達に見せていた勇姿は偽りか!」


 五人の緑が一斉に距離を詰めてくる。

 僕はその瞬間、十割の力で地面を蹴って先頭の緑の顎を膝蹴りしていた。


 分身が消える。

 緑は脳震盪を起こしたらしく、膝をつく。


「速い……」


 緑は、悔しげに言う。

 その額に、僕は槍を突きつけた。


「どうして俺が本体だとわかった」


「緑なら確実に攻撃を当てるために先頭に飛び込むと、そう思った。分身は追撃に使うだろうな、とか。それで違えば、全員まとめて倒すつもりだった」


 緑はしばらく下唇を噛んで俯いていたが、そのうち苦笑した。


「あー、駄目だ駄目だ。やっぱつえーな、コトブキは」


 そう言って、短刀を投げ捨てる。


「俺の、負けだ」


 僕も大人しく槍を引いた。


「コースケについて説明させてくれ。遅いかもしれないけど、お前が一人で調べるよりは安全だと思うんだ」


「聞いたよ」


 緑はそう言って天を仰ぐ。


「コースケはアークスで、歌世ちゃんと恵ちゃんはナンバース。敵対する組織なんだろう?」


「恵さんが喋ったのか」


「ああ、そうだ。なんでコースケを受け入れた? あいつは危険人物だろう」


「コースケはアークスも一枚岩ではないと言った。いずれ来る世界の破滅から異界を方舟として人を救うのがアークスの目的なんだと。自分は、異界を暴走させるような過激派と違い穏健派だと」


「信じたのか」


「……無視はできないと思った」


「そうか」


 緑はそう言うと、喉を鳴らして笑った。


「なんというかコトブキらしいな」


 緑は真っ直ぐに僕を見た。


「やっと話してくれたな、コトブキ」


「ああ、話した。これも、緑の安全を思ってのことだったんだ」


「その調子で、お前の力で皆を守って見せろよ。ユニコーンのホルダー」


 そう言って、緑は手を差し出す。

 僕は、その手を握った。

 二つの手はしっかりと繋がれた。


「約束だ」


「ああ。約束する」


 二人して、微笑む。

 やっと僕達は戻れた。犬猿の仲から、友人に。


「話を聞いて、お前が話すのを躊躇った理由もある程度理解できたよ。水臭いってのが本音だけどな」


「悪かったと思ってるよ」


「いいさ。もう、知りたいことは大体知った」


 そう言って、緑は手を離すと、立ち上がった。

 そして、カードホールドからメインカードを取り出す。


 その瞬間、緑の姿は学生服に戻っていた。


「さ、遊びに行くぞ、コトブキ。メダルパチンコで英才教育を施してやるぜ」


 それは中々に怖い提案だ。

 しかし、友人の誘いだ。無下にはできない。


「……程々に頼むよ」


 そう言って、僕もカードホールドからユニコーンのカードを取り出した。

 僕の体に生えていた白い産毛が消える。


 そうして僕達は、賑やかなゲームセンターの中へと戻っていった。

 一時は失った居心地の良さが、そこにはあった。




続く

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