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緑の疑念

 緑と僕は普段昼食を食べる学校の中央にある大樹の下で向かい合っていた。

 緑は珍しく真剣な表情だ。


 二人きりで話したいと緑は言った。

 なにを考えてのことか僕はわからず、戸惑うしかない。


「単刀直入に訊くぞ?」


 緑は淡々とした口調で言う。

 その声から滲み出る威圧感のようなものに、僕は思わずたじろいだ。


「う、うん、いいよ」


「アークスってなんだ?」


 僕は息を呑んだ。

 何故その名前が緑から出てくる。


「コースケはアークスなんだろう? 恵ちゃんも元はアークスなのか?」


「待って待って、ちょっと待って。なんでお前の口からアークスなんて言葉が出てくるんだよ」


「お前がコースケを呼び出した時に隠れ身の術を使ってつけてた」


 悪びれずに緑は言う。


「あんまり近づけなかったから会話の一部分しか聞こえなかったが、それでもアークスって単語は聞こえてきた」


 僕は黙り込む。


「お前は真剣な表情だった。アークスだとなにかまずいのか?アークスの奴は皆恵ちゃんやコースケみたいに強いのか?」


 僕は答えられない。


「もしかして」


 緑は目を細める。


「異界を暴走させてたあいつもアークスなんじゃないよな?」


 僕は答えられない。

 緑は、溜息を吐いた。


「図星か。恵ちゃんがコースケを悪人扱いしてる理由がわかったぜ」


「知れば、巻き込むことになる」


「もう巻き込まれてるようなもんだろ」


 緑は呆れたように言う。


「で、どうするんだ? これからも隠し続けるのか?」


 僕は、やはり答えられなかった。

 沈黙が場を満たした。


「残念だ。ダチになれたかと思ってたのに」


「友達だからこそ、巻き込みたくないんだ。コースケに異界を暴走させた人間みたいに悪意はない。アークスと一口に言っても一枚岩じゃない」


「じゃあ、歌世ちゃんは何者だ? あれも普通じゃないよな。あの人もアークス絡みなのか?」


 僕は口をつむぐ。

 師匠はナンバースだ。

 しかし、それを言えばナンバースとはなにかから喋らなくてはいけなくなる。


「また、だんまりか」


 緑は呆れたように言う。


「一つ言えることは、アークスのコースケが部に所属しても危なげなく進めるってことだ。歌世先生も安全を確保した上で下層の探索を手伝ってくれてる。僕達もいずれボスと戦うハメになる。それを前もって体験できるならこれ以上のことはないだろう?」


「おためごかしだな」


 緑は一言で切って捨てた。


「秘密が多すぎるよ、お前」


 緑は僕から視線を逸らす。


「ダチだと思ってたのは、俺だけらしい」


「そんなことないよ。僕もいい友達だと思ってる」


 緑が僕を見る。拗ねたような表情で。


「なら、どうしてなにも語ってくれない」


「巻き込むことになるからだ」


「無限ループだな。もう巻き込まれてるだろ」


 緑は溜息混じりに言う。


「お前との付き合い方を少し考えさせてもらうよ。じゃあな」


 そう言って緑は去っていった。

 僕は一人、その場に残された。

 コースケの出現。それは思わぬ亀裂を僕達に呼んだ。



続く

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