張り合い
「番長、そいつの腕は確かなんですか?」
緑が疑うように言う。
「確かじゃわい。先生より上かもしれんの」
新戦力に番長はホクホク顔だ。
それは強いだろう。ナンバースの師匠と何度も対決して生きているアークスの一員だ。
弱い訳がない。
「歌世先生はアクセルフォーまでしか使わんかったが、こいつはアクセルファイブを使いこなせる」
「へー」
笹丸が感心した、とばかりに言う。
「優男だと思ってたけど随分やるんだな、お前」
笹丸はもう歓迎ムードだ。
「私は、反対です」
恵が、恐る恐ると言った様子で言う。
「素行とか、わからないじゃないですか。もしかしたら、凄い悪人かも」
「そんなこと言ってたら誰も入部させれんわい。まあ、体験入部の期間はとるがの」
「恵ちゃん、酷いじゃないか。これでも元同門だろ?」
コースケが苦笑交じりに言う。
周囲にある種の緊張感が走った。
「恵ちゃん、こいつ知ってるの?」
笹丸が戸惑うように言う。
「同門ってどういうことだよ」
恵は暫く俯いていたが、そのうち顔を上げて言った。
「しばらく、同じ団体に所属していたことがあるんです」
「恵ちゃんは僕に恩があると思っていいと思ってたんだけどな」
「それはそれ、です」
「やれやれ、別団体に移籍した途端にこれなんだから」
「恵。お主の所属していた元団体ってどんなところかの?」
「それは……」
恵は言い淀んだ。
ナンバースやアークスのことを一般人に語るのを躊躇っているのだろう。
そしてそれは正解と言えた。
知れば、巻き込むことになる。
僕のようにもう巻き込まれてしまった人間は取り返しがつかないが、これ以上巻き込む人間を増やさぬべきだろう。
「皆授業お疲れ様」
扉を開いて師匠が入ってきた。
師匠がコースケに視線を送る。コースケが微笑むと、その視線は逸らされた。
「それで、先生。今日は何処の異界へ行くのかの」
「笹原の異界に行こうと思っているよ。あこもボスが未討伐だ」
「ボス狩りなんてしてるんだ」
コースケが楽しげに言う。
「まあ、いい経験になると思ってね」
「報酬はちゃんと払ってる?」
「おかげさまで使い切れない部費が支払われとる」
「なるほどねえ」
コースケはうんうんと頷く。
「それじゃあボス戦で、僕の力量を測って貰おうじゃないか」
「案外肝座ってるのな」
笹丸が感心したように言う。
「初めてじゃないからね」
コースケは飄々とした調子で言う。
仲良くしたいと彼は語った。
それは本心なのだろうか。
僕はまだ半信半疑といった感じだ。
ただ、アークスだからと彼を追い出すのは何か違うと、そんな感じがするのだ。
偏見から排他されてきた記憶が僕にそんな判断をさせるのかもしれなかった。
結局、コースケも一緒に笹原の異界に向かうことになった。
笹原の異界は山の中で、辿り着くまでに少しの労力が必要だった。
「それじゃ俺が最初に入るから、三分程してから皆入ってくれ」
そう言って、番長がワープゲートに入ろうとする。
「あれ? 歌世ちゃんが一番じゃないの?」
「これも経験よ」
師匠は面白くなさ気に言う。
「私がでしゃばれるわけじゃないからね、いつまでも」
「成る程、先生として教育してるわけだ」
「そゆこと」
師匠は視線を逸らす。
「あんたと話してるといつも調子が狂うわ」
ぼやくように言った師匠だった。
それは、宿敵がこんなフレンドリーなら戸惑いもするだろう。
番長が中に入っていく。
そして、三分が経った。
皆、列をなして中に入っていく。
先頭は僕と師匠と緑。その次に優子と恵と先輩とコースケ、荷持の笹丸が最後だ。
中に入ると、外と変わらぬ鬱蒼とした森が僕らを出迎えた。
「楽しみだなあ。歌世ちゃんの戦いぶりを見るのは久々だ」
「……そうね」
「実力上がってるかな」
「こんな異界で全力は出さないわよ。まあ勝手に見てなさい」
「なんじゃあお主らも顔見知りか」
先に入っていた番長が戸惑うように言う。
「ま、ちょっとした腐れ縁って奴よ」
師匠は表情を浮かべず、淡々とした口調で言う。
「そうだね。僕と歌世ちゃんは切っても切れない腐れ縁だ」
「切りたいんだけどね。その胴体ごと」
師匠の言葉に殺意が交じる。
敵対するそれぞれの組織に所属する二人だ。僕は内心ヒヤヒヤとしていた。
戸惑いつつも番長は前進を始める。
全員、その後に続いた。
まずは見回りのような、オーク八体が現れた。
オークは斧を振り上げ、駆け寄ってきた。
地響きが立ちそうな足音だ。
「――アクセル」
師匠は呟くように言うと、カードホールドのメインスロットに添えた手を放した。
その時には、師匠の髪は緑色になり、耳は尖っている。手には槍が持たれていた。
師匠の槍が先頭のオークの心の臓を一突きにした。
「アクセル、ツー」
コースケが言い、目にも留まらぬ速さで二匹目のオークの頭を叩き割る。
手には金棒が持たれ、額には角が生えている。
「鬼のホルダー、幻想種のホルダーか!」
番長が感心したように言う。
「アクセル、スリー」
「アクセル、フォー」
師匠とコースケが同時に言い、同じオークの頭部と心臓を破壊する。
「アクセルファイブ」
「アクセルセブン」
二人共徐々に速度を上げていく。既に自動車のようなスピードだ。
「アクセルトゥエンティー!」
「アクセルトゥエンティーワン!」
その叫び声が響いた時、二人は樹に自らの体を叩きつけていた。
スピードが速すぎて制御しそこねたのだ。
「アイアンファントム!」
きょとんとしていた先輩が我に返って残りの敵を掃討する。
唖然とした空気が周囲には漂っている。
「頭から血が流れてる……二人共重症だわ」
優子が呆れたように言う。
「暫く治療の為に休憩!」
気を取り直そう、とばかりに手を一つ叩いて番長が座り込む。
「なんなんだこの二人……なんか凄いけどアホっぽいぞ」
笹丸の感想は皆の総意だろう。
続く




