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制約の中で

 フェニックスの周囲に三つの炎弾が現れた。

 それは、鳴き声とともに一斉にこちらを攻撃した。


 空を飛んでフェニックスに向かっていた番長がまずその炎を受け止める。


「神の闘気!」


 番長の体から白い闘気が溢れ出し、炎弾をかき消した。

 残り二発。


 優子がサンクチュアリの結界を張ろうと地面に手を当てる。

 それを、横から恵が抱きかかえて移動した。


「聖属性の炎は聖属性の防壁を貫通します」


 恵が手短に言う。

 流石はナンバースの構成員といったところか。


 これで二発。

 三発目は、荷持で移動に手間取っている笹丸に襲いかかった。

 笹丸は荷台を引いて、前へ駆け出す。しかし、少し遅い。


 その前に僕は立ち、槍を勢い良く回転させた。


「ゼロストーム!」


 槍の作り出す風が炎の壁を弾き飛ばす。これで三発目。

 なんとか凌ぎきった。


「氷属性の武器をくれ、笹丸!」


「俺もじゃ!」


 縁と番長が口々に言う。


「アイアンファントム!」


 先輩が上空に向かって鋼と化した羽を大量に射出する。

 しかしそれは、フェニックスに移動して避けられた。


 相手は空中。

 こちらは地べた。

 それだけでもこちらが不利だ。


 フェニックスは笹丸が狙い目かと思ったのか、笹丸に向かって突進してきた。

 その移動の軌跡を残すように炎の道ができる。

 ファイアロード。


 いかなる敵をも焦がす灼熱の道だ

 緑が僕と笹丸の前に立った。


「土壁の術!」


 土の壁が僕らの前にできあがる。

 それは、フェニックスの突進を受けてひび割れた。


「へへ、俺も中々やるだろ」


 そう緑が微笑んだ時のことだった。

 ヒビが拡大していく。

 そして、崩れた土壁から、フェニックスが顔を出しいた。


 その次の瞬間、土壁は破壊され、僕ら三人はファイアロードに巻き込まれていた。


 熱い。痛い。喉が焦げる。


「ヒール!」


 優子が恵に抱きかかえられたまま唱える。

 僕は歩ける程度までは回復したが、緑と笹丸はまだ蹲っている。


 フェニックスは上空で、再び鳴いた。

 強い。これが異界のボスの実力。


 けど、倒せない敵ではない。僕はそう思う。


「制約は決まった」


 師匠が淡々とした口調で言う。


「ユニコーンのホルダーは攻撃一回のみ許す。それが縛りだ」


 なんて酷い宣言だろう。

 今でさえ苦戦しているのに一回しか攻撃できないとは。


 僕は荷台を漁ると、氷属性の剣を番長に向かって投げた。そして、同じく氷属性の短刀を緑に握らせる。


 頭上では番長とフェニックスが空中戦を繰り広げていた。

 炎をかき消しながら番長はフェニックスに肉薄する。

 そして、片方の翼を見事に叩き切った。


 しかし、フェニックスはまるで体が炎でできているかのように即座に翼が再生する。

 が、それで動きが一瞬止まったのは確かだ。

 先輩はそれを見逃さなかった。


「アイアンファントム!」


 鋼の羽がフェニックスの胴体を貫いて真っ二つにする。

 そしてフェニックスは甲高い声を上げ、下半身から順に灰となって消えていった。


「攻略完了、なのか?」


 優子の治癒で回復した笹丸が戸惑うように言う。


「ひでえ目にあったぜ」


 同じく緑がゲンナリした口調で言う。


「まだじゃ」


 番長が緊迫した口調で言う。


「来るぞ」


 灰の中に光が差した。それはみるみるうちに鳥のシルエットになっていく。

 そして、フェニックスは新生した。

 ダメージの全てを置いてきたと言わんばかりに、高々しく鳴いた。


 フェニックスは羽ばたく。

 そして、再び炎弾を放った。


「キリがないぜ!」


 緑は怒鳴って回避する。

 笹丸は荷台を持ち上げると振り回して炎弾を叩き落とした。

 流石はゴリラのホルダーと言ったところか、


「まったくな!」


 その時、僕は体が軽くなるような感覚を覚えていた。

 優子が、僕に支援魔法をかけたのだ。

 その目は、信じているとばかりに僕を見ていた。


「任せろ」


 呟く。

 そして、番長に向かって叫んだ。


「番長! フェニックスの動きを一瞬止められますか!」


「ああ、可能じゃ」


 炎弾を無効化しながら番長はフェニックスに肉薄する。


「お願いします!」


「後は任せた!」


 番長がフェニックスの翼を断つ。

 落下する数秒の隙間の時間。

 その停止している時間に、僕は動いていた。


「投華螺旋突き!」


 叫んで、槍を投擲する。

 回転する槍がフェニックスの頭部を貫いた。


 フェニックスは断末魔の叫びを上げると、そのまま消えていった。


 場に静寂が訪れる。


「倒した……のか?」


 番長は戸惑うように言う。


「おそらく、頭に核があったのでしょう。灰になった時も、最後まで残ってた」


 僕の言葉に、番長は頷いて降りてくる。

 そして、地面に着陸した。


「なんにせよ、これで攻略完了じゃのう。コトブキがいなかったら危なかった」


「いえ。タイマン張ってた番長も大したものですよ」


 僕は大真面目にそう思う。この人は生徒会長より強いのではあるまいか。


「二人がいなきゃとても勝てる敵じゃなかったわ」


 先輩はぼやくように言う。

 恵に降ろされた優子が、笹丸と緑に駆け寄っていく。


「ごめんね、今回復するからね」


 師匠が歩み寄ってきた。

 その手にはカードホールドと、カードと、宝石が握られている。


「今回のボス討伐の報酬は以上だ。新品のカードホールドと、でっかなルビー。そして、フェニックスのカード」


「聖獣のカード、か」


 番長は息を呑む。


「私が然るべきところで買い取ってもらうよ。しばらく部費には困らないはずだ」


「疲れたけど、得たものもあったっちゅうことじゃのう」


 番長が苦笑交じりに言う。


「疲れましたね」


 僕は言う。

 思いもしない下層への侵攻。ボス戦。戦い続きだった。


「もうしばらく異界はええってほど働いたの」


「だなあ。私も同感だよ」


「あら。これからどんどん皆には異界に挑戦してもらおうと思ってたんだけどなー」


 師匠がとぼけた調子で言う。


「結構です」


 番長と先輩は異口同音に言っていた。




+++



 帰り道、一年五人組で歩く。


「やっぱ番長とコトブキは別格だな。来年は番長がいなくなるから前衛の駒が少し足りなくなるけど」


 緑が冷静に分析する。


「大丈夫大丈夫。ユニコーンのホルダー様がいれば安泰ってとこよ」


 笹丸がどこから湧いてくるのかわからない自信でそう言う。


「お前、死にかけたんだぞ」


 緑はげんなりした口調で言う。


「歌世ちゃんも意外とスパルタだよなー」


 笹丸は苦笑交じりに言う。


「大変な人が顧問になっちゃったかもしれないね」


 優子が、沈んだ表情で言う。


「大丈夫。俺達で力を合わせればクリアできない異界なんかない」


 笹丸が自信たっぷりに言う。

 ほだされるように、皆、笑った。

 一つの異界を一緒にクリアした。それは、よくわからない一体感を僕らに与えていた。


「俺、探索員としてやっていけそうだと思ったよ。プロが十数人で挑むなら異界のボスもなんともない」


「今回は相手も悪かったしな。なんたって聖獣だ」


「聖獣のカードは何処へ行くのかな」


 優子が至極当然の疑問を言う。


「やっぱプロの探索員に分配されるんじゃねえの。知らんけど」


 と、緑。

 緑の分析はさっきから中々的確だ。

 笹丸と比べると理論派なのだろう。


「じゃあ、俺達ゲーセン行ってくる」


「あ。私も行きます」


「恵ちゃんも?」


「大歓迎だぜ」


「二人にしてあげないと可哀想ですからね」


 そう言って恵はウィンクする。

 そうして、三人は去っていった。

 残された僕と優子は、並んで帰路を歩き始めた。


「大変だったね」


「ああ」


「大活躍だったね」


「かな」


「もう、大活躍だよ」


 手に温もりを感じた。

 優子の手が、僕の手を握っている。


「君はいつも私に勇気をくれる。だから私は戦える」


 優子は、少し照れくさげに微笑んで、前だけを見て言った。

 僕は、握り返す。


「いつだって君を守るよ」


「うん」


 沈黙が漂った。

 これっていい雰囲気なのではないだろうか。

 もしかして、キスとかできる?

 そんなことを考えながら、ただ歩く。


 そのうち、優子の家の方向と別れる道に辿り着いた。


「……それじゃ、また明日」


(意気地なし)


 僕はそう心の中で自分を蹴飛ばす。

 優子は微笑むと、顔を近づけてきた。

 シャンプーのいい匂いと、頬に柔らかい感触。


「じゃあ、またね」


 そう言うと、優子は駆け去っていってしまった。

 僕はしばらく呆然としていたが、そのうち微笑んだ。


「またな」


 呟いて、帰路についた。



続く

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