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スキルボーナス

 番長を先頭に歩き出す。

 荷持の笹丸が後方を、師匠は最後尾を歩いている。


 崩れかけた遺跡だ。天井に穴が空いている部分が多く、そこから差し込む日差しが周囲を照らしている。

 モンスターは、中々出てこない。


 既に探索員に掃除された後、ということだろう。

 それでも、止めどなくどこからかモンスターは湧いてくるのだが。


 異界一つにつき監視がついているのはそういう理由だ。


「噂は本当なのかのう」


 番長が呟くように言う。


「絶対本当っすよ」


「火のないところに煙は立たないって言うし」


 笹丸と緑が言う。

 その根拠はどこから出てくるのだろうと思う。


 陽キャのこういう根拠のない自信が僕は苦手だ。


「結局、噂ってなんなんですか?」


 恵が問う。


「それはのう」


 番長が後ろを向いて口を開いた時、先輩が叫んだ。


「出た!」


 番長が素早く前を向く。その肌に鱗が生え、黄金の闘気が輝き始める。

 確かに、出た。モンスターだ。

 竹のように長細いモンスターだった。蔦のような触手が何本も生え、蠢いている。


 その口から、紫色の液体が放たれた。

 しかしそれは、番長の黄金の闘気の前に掻き消えていく。


「フェザーファントム!」


 先輩の背中に羽毛が沢山生えた翼が生え、大量の羽が射出される。

 それは、モンスターの胴体を中央で真っ二つにしていた。


 モンスターは崩れ落ちる。

 その瞬間、笹丸と緑と恵のカードホールドが輝いた。

 レベルアップの反応だ。


「おおー、キタキタキタ」


「噂は本当だな」


 二人は満足気に言う。


「なんか凄い体が熱い……エネルギーを注ぎ込まれているような」


 優子が呟くように言う。

 僕も同じ感覚を味わっていた。


「このダンジョンはのう。敵を倒した時のスキルボーナスが多い場所なんじゃ。つまり、スキル上げに持って来いってわけじゃな」


「危険じゃないですか? 今の、下層の敵でしょう?」


「下層にはもっとオイシイモンスターがいる……っちゅう噂じゃの」


「そっか、上層の敵なんだ」


 恵は戸惑うように言う。


「さ、進むわよー。上層のマップは探索員さんに貰ったからね」


 師匠が楽しげに言う。

 道中の戦いは問題なく進んだ。


 古代種のホルダー二人が次々に敵の攻撃を受け止め、倒していく。

 その中で、僕達はどんどんレベルアップしていった。


「恵、アクセルを上げるのは程々にしときなね」


 師匠が言う。


「もうちょっと無理が効きそうな気はするんですけどね」


「あんたは支援スキルを取る方が優先度が上だ」


「……まあそうですよね」


 恵が不承不承といった感じで言う。


「恵さんってアクセル伸ばしてるの?」


 アクセルは脚力を上げるスキル。基本的に近接戦闘を行うホルダーが上げるスキルだ。


「そうですよー。私、こう見えて近接型だしね」


「僧兵タイプってことか」


「そうなります」


 そういえば彼女は師匠のカードでアクセルを三段階目まで使っていた。

 師匠のようなアクセルの十段階目などという信じ難い速度を制御することはできないだろうが、常人としては十分天才的だ。


 レベルアップにレベルアップを重ね、一同は新たなワープゲートの前についた。

 探索員が二人、待機している。


「ここから先は下層だ。上層と違ってまだ攻略も終わっていない。MTは入れないぞ」


 のっぽの探索員が言う。


「あれ? 話通ってないかな」


 師匠が戸惑うように言う。


「規則は規則だ」


「じゃあ、これ。書類」


 そう言って、師匠はバックから紙を一枚取り出す。

 それを見て、のっぽの探索員の形相が変わった。

 もう一人の探索員も、書類を覗き込んで絶句する。


「というわけだ。通してもらうよ」


「了解しました」


「ご武運を」


 そう言って、探索員二人が道を開いた。


「いいんか? 俺達が下層に行って」


「私を連れて行ったら面白い目を見れるって言っただろ?」


 師匠は楽しげに言う。


「この異界は掃除はされているがまだボスモンスターが残ってる。敵の出現率は高いから注意しなね」


 そう言って、師匠は前を歩いていって、ワープゲートに足を踏み入れた。

 師匠の姿が消える。


「うーん、一体どんな手腕を使ったのかのう」


 番長は戸惑いながらその後に続く。

 先輩がその後に続き、優子、恵、緑、笹丸、僕の順で中に入っていく。


「此処から先は地図がない。笹丸君、マッピング頼むよ」


「了解」


 少し強張った口調で笹丸が答える。

 そして、ポケットからメモ帳とペンを取り出した。


 下層で待っていたのは激戦だった。

 あの細長いモンスターや、それを太くしたようなモンスターが、次から次へと出てくる。


 僕も戦闘に参加することになり、五月雨・改で多くの敵を屠った。

 次々にスキルポイントが溜まってくるが、振り分ける余裕がない。


 そのうち、開けた部屋に辿り着いた。

 奥には、宝箱がある。


「ちょっと確認するよ」


 そう言って、師匠は靴を脱いで、中に投げる。

 反応はない。


「罠はないみたいだね」


 そう言って、師匠は中に入っていって、靴を拾った。

 宝箱の中身は、七色に輝く宝石だった。


「これは高値がつくなあ」


 師匠は満足気に言う。


「ちょっと疲れたんで休みません?」


 優子が言う。

 その場で、休憩することになった。


 先輩がお菓子を鞄から取り出して皆に分ける。

 全部の袋を開いてパーティー状態になった。


「ちょっとスキルの使い過ぎで集中力が保てなくなってきたぜ……」


 と緑。


「今のうちにスキル振り分けとこうぜ」


 と笹丸。


「噂も馬鹿にはできんの。まあ、下層に来れなかったらこれほど急激なレベルアップはなかったじゃろうが」


「恵。支援スキル、ね」


「了解です、先生」


「これが探索員の仕事だ。これでも随分下層のモンスターは掃除されてると思うよ」


 師匠は疲れを感じさせない飄々とした口調で言う。


「わー、信じられないほどスキルポイントが溜まってる」


 優子が驚いたとばかりに言う。支援スキルに集中していて確認する暇がなかったのだろう。


「この調子で皆にはボスモンスターに挑んでもらうよ」


 師匠の言葉に一瞬皆が絶句した。


「え?」


 異口同音にその言葉は発せられた。


「ボスモンスターに挑戦してもらうって、そう言ったんだ」


 師匠は楽しげにそう言った。



続く

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