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異界探索手続き

「はいはい、異界の探索ね」


 そう言って、師匠は机の上から紙を一枚取り出した。


「何処の異界に行くかを書いて、参加者を書いて、部長の判子。それさえしてくれれば後は私が処理しとくから~」


「ということじゃコトブキ。判子は持ってきたじゃろうの」


「僕も一応流れは知ってますから」


 職員室だった。

 既存の異界に行くためには書類手続きが必要となる。

 最近イレギュラーな隠れ異界続きですっかり感覚が麻痺していた。


 書類の記入欄に必要なことを書き記していく。

 そして最後に、名前の横に判子を押した。


 それを師匠は確認して、責任者欄に名前を書いて判子を押す。


「一応確認しとくけど私もついてくね」


 番長は見るからに面白くなさ気な表情になった。


「バックアップに回ると言うてなかったかのう」


「バックアップはするさ。ついていくのもその一環だ。なに、私を連れてったほうが面白い目を見られるぞ」


 そう言って、師匠は含みありげに微笑んだ。


「ふむう……」


 番長は引き下がる。

 これからも異界の探索には顧問の判子が必要だ。

 だから、力関係ははっきりとしている。


「ちょっと私も判子貰ってくるから、適当に準備して待っててよ」


 師匠は書類を持つと、校長室に向かって歩いていった。


「まあこんな感じじゃコトブキ。来年から書類提出はお前の仕事じゃからのう」


「来年は番長はいないんですもんね」


「ああ。今のところペーパーテストも実技も及第点を維持しとるからのう」


 番長は三年生。

 後数ヶ月でいなくなる。

 黄金の闘気を使いこなす彼がいなくなるのは、正直不安だ。


 けど、仕方ない。

 僕らは次のステップに進むために学校に来ている。

 いつかは巣立たなくてはならない。


「しかし、三年になってこんなに愉快な思いをするとは思わんかった。十万踏み倒そうとした蹴鞠には感謝せんとな」


「本音で言ってます?」


 番長は暫し考え込んだ。


「考えてみたらそれはないなって思ったわい」


「でしょうね。相当酷い騙され方してましたもんね」


「忘れろ、恥ずかしい」


 そう言って、番長は職員室の出口に向かって歩き出す。

 僕も、その後を追った。


 今日は本格的に異界を攻略するという。

 と言っても、今回僕らが侵入するのは発見済みの異界。

 探索員によって攻略済みの異界だ。


 基本的に僕らMTはそういった異界以外は行ってはならないことになっている。

 トウジが作った異界の数々も、そろそろ相当数が上に報告されているらしく、隠れ異界を発見して独占するという真似はできなくなっている。


 少し窮屈な思いをしなければならなそうで残念なような、安全な道を歩けそうで安心したような、複雑な気分だ。

 昇降口で靴を履き替え、外に出る。笹丸が装備を乗せた荷台を持って、他の四人もその場に揃って待機していた。


「今、歌世先生が校長と相談してるとこじゃ。少し待ってくれ」


「りょけ。つっても順番待ちじゃないかね」


 先輩が退屈そうに言う。


「番長、どうせなら隠れ異界探しに切り替えません?」


 笹丸が面白くなさ気に言う。


「そうっすよー。隠れ異界じゃないと実入りがまるで違う」


 緑も同調する。


「たまには正攻法で挑まんとな」


 番長の言葉に、不良二人は黙り込む。

 そうこうしているうちに、車が背後に停まった。

 運転席には、師匠がいる。


「じゃ、行こうか。待たせた分飛ばしていくよ」


「了解です」


 僕は答えて、助手席に座る。

 他の面々も各自席に座った。


「出発」


 師匠の言葉とともに、車が動き出す。


「正直君達は正攻法過ぎてつまらないと思っているかもしれない」


 師匠は運転しながら言う。

 その口元が、少し緩んだ。


「けど、今は異界が乱立していて多少の混乱状態にある。面白い発見があるかもしれないよ」


「そういうものですか……?」


 恵が、恐る恐るといった様子で問う。


「そういうものです」


 師匠は、自信たっぷりに頷いた。

 目的地にたどり着くと、そこには監視役の探索員が数人いる。

 異界へ繋がるワープゲートからモンスターが出てこないか監視しているのだ。


 師匠は車を停めると、外に出て、書類を探索員に手渡した。


「ここはまだ下層の掃除が済んでいない異界だが、自信の程はあるのかな?」


 探索員がからかうように言う。


「面白い人材達ですよ。古代種のホルダーが二人、忍者のホルダーが一人、ゴリラのホルダーが一人、僧侶のホルダーが二人。そして、聖獣のホルダー」


 探索員の目が大きく見開かれる。


「噂のユニコーンのホルダーか」


「そういうことです」


「なら、実力は十分だろうな。下層から何匹か上層に出てきているかもしれんが、まあなんとかなるだろう。本当はオススメはしないがな」


 そう言って、探索員は書類に判子を押した。

 この判子を集める作業が非常に面倒臭い。


 生徒会長や先輩が隠れ異界を見つけても上に報告しなかった理由がわかるというものだ。

 また、この手続を踏んで異界で宝物を見つけた場合、笹丸達がさっき言っていたように実入りは少ない。

 一度探索員の手に渡り、オークションなどにかけられ、そこから三割ぐらいの額しかこちらには入ってこないのだ。

 それも、部活上で使うなどの制約がかかる。


 笹丸が隠れ異界にこだわるわけである。


「それじゃ、行こうかの。俺が先に入るから、三分ほどしたら入ってきてくれ」


 そう言って、番長が中に入っていく。

 たっぷり三分待って、後に続く。


 そこは、廃墟のような異界だった。

 石造りの壁には蔦が生え、カビ臭い臭いが漂っている。


「ここが、噂の鈴の森の異界か」


 番長が呟くように言う。


「鈴の森の異界なんすか、ここ」


 緑が驚いたとばかりに言う。


「それじゃちょっと期待できるかな」


 笹丸はいつだって調子がいい。荷台を引く手にまでやる気が見える。


「鈴の森の異界ってなんかあるんですか?」


 僕は戸惑いがちに問う。


「知らないの? コトブキ君」


 先輩がにやけながら言う。


「知らないです」


「私も知らない」


 と、優子。


「私も聞き覚えがないですね」


 と恵。

 最近学校を騒がせている三人組が台風の目状態になっている。


「ここはね。オイシイ異界なんだよ」


 飄々とした口調で師匠は言った。


「許可取るのにちょっち苦労したけどね」


 僕は戸惑うしかない。



続く

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