表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/274

優子の異変

 昼休み、学校の中央にある大樹の下で、僕と不良二人と恵は待ちぼうけしていた。

 三人分の食事の用意をしてくれる優子がまだ来ていないのだ。

 もう昼休みも半分を過ぎた。


「今日、優子は休んでるのかな」


 今日の優子は、朝に呼びにも来なかった。


「気になるんなら見に行けばどうですか?」


 恵が躊躇いがちに言う。


「そうだな、ちょっと見てくるわ」


 そう言って、僕は優子の教室まで歩いていった。

 優子は、果たしていた。


 机に突っ伏して寝入っている。

 その肩を揺する。


「優子。優子」


「ん……」


 優子はゆっくりと上半身を起こし、目を開けた。


「どうしたんだ? 寝不足なのか?」


「いや、過眠気味」


 そう言って、彼女は苦笑する。


「最近良い夢見るんだ。すっかりそれにはまっちゃって」


「そっか。起こして悪かったな」


「こちらこそ、弁当用意するって約束したのにごめんだよ」


 安堵する。

 昨日あんな別れ方をしたのに優子はいつも通りだ。


「じゃあ、大樹の下に行こうか」


「ああ」


 自分は変わったのだろうか。そんなことを僕は思う。

 昔の僕なら師匠が任せろと言ってもついていっただろう。

 それがなかったのは、師匠への大きな信頼。


 いつの間にか、人を信じる術を思い出している。

 優子からすれば、別人になったように見えてもおかしくはないのかもしれない。


 昼ご飯を五人で食べる。

 今日も優子の弁当は美味しかった。


 帰り道、五人で歩く。

 笹丸と緑がいつものように先に別れ、優子と恵と僕の三人になる。


 そして、途中の道で優子が別れる。

 優子は少し寂しげに苦笑すると、別れを言って去っていった。


「私とコトブキ君が二人きりで帰るというのも優子さんには面白くないんでしょうね」


 恵が、ぽつりと言った。


「それなら優子も遠回りしてるさ」


 僕は気休めのように言う。

 けど実際、面白くないんだろう。

 ありがたいのは、優子がそれを表に出さなくなったことだ。

 なにか、心境の変化があったのかもしれない。


「それにしても気になりますね」


「なにがだ?」


「海に落ちても寝てたっていうその人」


「寝不足だったんだろ」


「それでも、この時期の冷たい海水に落ちれば流石に目が覚めるかと……」


 言われてみれば確かに。

 だから、師匠も監視をつけたのだろう。


 なにかが起こっている気がした。

 それが何か、今の僕にはまだ見えなかった。


 深夜、公園へと歩く。

 師匠はいつも通り、缶コーヒー片手に待っていた。


「ビンゴだ」


 そう、師匠は言う。


「なにがですか?」


「私が見つけた海で寝入ってた男。連続する死者。皆、過眠傾向にあったらしい」


「過眠傾向……ですか?」


「講義中に寝ていたり、昼休みに寝ていたり。ともかく眠っていたらしい」


 師匠は危機感のない安穏とした表情で言う。

 背筋が冷やりとした。


「今日、優子も昼休みの時間に寝てました」


 師匠の顔が一気に引き締まる。


「それは……危ないかもなあ」


「ちょっと様子見に行こうかな」


「こんな時間にかい?」


「スマホで連絡は取れるだろうから」


 そう言って、僕はスマホを操作する。

 もう寝ているのか、優子の返事はない。

 焦燥感が僕を襲った。


「ちょっと、優子の家に行ってきます」


「まちな」


 師匠は鋭く言う。


「ナンバースのエージェントを送るよ。君はここでゆったりしていると良い」


「けど……」


 幼馴染のことだ。他人に任せたくないという思いがある。


「親御さんもいるだろう。深夜の訪問は非常識だと私は思うが」


 そんなことを言っている場合だろうか。


「大丈夫だ。腕利きを配置する。昼の優子ちゃんを見守ってくれ」


「……わかりました」


「きっとぐっすり普通の睡眠をしてるさ」


 気休めのように師匠は言う。

 昼休み。寝ていた優子。あれは偶然なのだろうか。

 僕は釈然としない気持ちを抱えていた。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ