魔の誘惑
四体の分身とともに大魔王に襲いかかる。
大魔王は両手を忙しなく動かして防壁を展開してその全てを防ぐ。
その繰り返し。
無限に続くかとも思われたその戦いだが、僕の一撃が大魔王の右腕を断った。
押している。その実感が僕を満足させる。
その次の瞬間、僕の世界は反転していた。
僕の体は、大魔王の左手に捕まえられて、宙吊りになっていた。
「本体を見破るのにやや時間がかかった。いや、見事だよ。ジエンドやレジスタンスの連中でさえここまで僕にダメージを与えたことはなかった」
大魔王の右手がみるみるうちに再生していく。
絶望。
そんな二文字が、僕の脳裏を過った。
「問おう。魔の軍門に降らないか?」
「断る!」
僕は即答していた。
大魔王は苦笑する。
「人間は醜いぞ。この大魔王の子だと知られれば、お前を待っているのは迫害だ。くだらぬことで人を避け、遠ざける。共通の敵にして嘲笑う。そんな光景、お前も何回も見てきたのではないか」
僕は黙り込む。
それは、僕がカメレオンのホルダーとして実際に体験してきたことだったからだ。
「それでも……」
一瞬、迷いはあった。
それも一瞬。
過去に対する恐怖からのもの。
僕には、優子や徹がいる。
「それでも僕は、人を選ぶ」
「そうか、残念だ」
大魔王の右手が振り上げられる。
次の瞬間、その手は僕の首を断つだろう。
僕は目を閉じた。
「ホーリーレイン!」
光の滝が空から降り注ぐ。
大魔王の両手は、それを防ぐ防壁を作ることに使用された。
自由になった僕は、後方へと一時退避する。
「ピンチだったな、コトブキ。俺達を置いていくからそうなる」
徹が苦笑顔で言う。
仲間達が、その場に揃っていた。
僕は唖然としたが、苦笑した。
なるほど、大天使の使が誘導すれば、徹の空間の断裂で異界に乱入することも可能だろう。
「怪我は大丈夫なのか、徹」
「ああ。共に戦おう」
僕は頷く。
この勝負に、決着をつけなくてはならない。
続く




