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魔王の影
町の前で門番が槍を交差させる。
「見たところ、人間のようだが……?」
僕は語る。一世一代の大芝居だ。
「次元の間をすり抜けてきたところを保護した。魔王様に献上しようと思ってな」
門番は相好を崩す。
「それは大儀であった。私が後を引き継ごう。そなたは休むといい」
「そなたは私の手柄を奪うおつもりか!」
ぴしゃりと怒鳴りつける。
門番は明らかに動揺したようだった。
「い、いや、そんなつもりは」
「今のもレジスタンスの悪知恵か?」
徹が小声で囁く。
「アドリブだよ」
冷や汗をかきながら答える。
くっくっくと徹は聞こえないように笑った。
「お前ら、道を開けてやれ」
門の奥から、ローブに身を包んだ魔物が一匹、歩み寄ってきた。
「ようこそ、琴谷様。魔王様がお待ちです」
その一言に、僕らは衝撃を受けた。
これまでの茶番も何もかも、魔王は全て見透かしていたということだ。
続く




