二度目の別れ
「あることから、私は知ってはいけない秘密を知ってしまった。そのことから、アークスから本格的に命を狙われることになった」
師匠は、優しい瞳で語る。
その瞳を見ていると、何故だろう。泣きたくなる。
「秘密?」
徹が問う。
師匠は、淡々と頷いた。
「ああ、秘密だ。詳細は伏せる。君達にまで飛び火させたくないからね」
師匠は苦笑交じりだった。
僕はそれを見つめる。
目に焼き付けようとするかのように。
「まず、心臓に銃撃を受けた。狙いやすい胴体を狙う。道理に叶った手だ。その後、頭に銃口を突きつけられた。まあ、一世一代の危機というわけだ」
「けど、先生は生きて帰られた」
優子が言う。
安堵の表情で。
「一体、どんな手管を使ったんで?」
「なに。私は捕縛しているコースケと古い付き合いだ。気分転換に付き合うことも多々あった。その中で教わっていたんだよ。異界展開の方法を」
その場にいた全員が目を丸くした。
異界展開。
アークスのお家芸だ。
「私は自分の異界に逃げ込みフェニックスのカードを起動した。そして傷を癒やし、息を潜めた。表に出ればまた暗殺の危険があるのはわかっていた。もう、教師ができないのはわかっていた」
最後の一言に、僕は息を呑んだ。
師匠は苦笑する。
「そう悲しそうな顔をするなよ、コトブキ君。代任の教師が赴任するだろう。後は、上手くやってくれるはずだ」
「けど、僕は……師匠と生徒会や部活を進めていきたかった」
「未練だね」
師匠は優しく微笑んだ。
その顔が、次の瞬間僕の隣りにある。
僕は、気がつくと抱きとめられていた。
「しばしの別れだ。こんな異常な状態、長くは続かない。全ては正常に戻る。アークスは瓦解し、ナンバースが正しき統治を齎すでしょう」
僕は力いっぱい抱きしめ返した。
師匠からは、大人の匂いがした。
香水の香りだ。
涙が溢れて、思わず泣き出す。
それほど、師匠は僕にとっての日常であり、癒やしだった。
「ずっとの別れじゃないよ。またね、コトブキ君」
そう言って、師匠は僕を放した。
ジエンドとの決着がついた夜。
僕は、師匠との二度目の別れをすることになった。
続く




