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突然の乱入者

 突然の乱入者に、僕は戸惑いながら対応する。

 夜の公園は僕と師匠のテリトリーだった。そこに、先輩が踏み入ってくるとは。


「先輩こそどうしたんですか。こんな夜更けに」


「私はバイト帰りだよ。君がふらふら歩いてたからどこへ行くのかなと思って」


「約束があったんです」


「約束? こんな時間に?」


「振られましたけど」


 そう言って、缶コーヒーを一気に飲み干して、師匠のようにゴミ箱に投げ捨てる。

 しかし、それは上手く中に入らず、弾かれた。

 師匠のようには上手くいかぬものだ。

 仕方なく拾いに行き、中に捨てる。


「それは酷い相手もいたものだね」


 先輩はしかめっ面になる。


「ええ、酷い相手なんです」


 僕は苦笑顔で言う。


「君にそんな思いをさせたのは誰だろう」


 ベンチに座り直す。


「隣、いいかな?」


「どうぞ」


「それじゃお言葉に甘えて」


 先輩は隣に座る。

 なんだろう、この安心感は。

 頼りにできる存在がいてくれるだけでこれだけ心が楽になるなんて。


「優子ちゃん、ではないよね?」


「優子なら三十分前にはついてそうだから僕もそれに合わせてます」


「浮気?」


「滅相もない」


 慌てて否定する。

 とんでもない疑惑をかけられては困る。


「それが」


 せきを切ったように、感情が流れ始めた。


「歌世先生と、大会中から連絡が取れないんです」


「ああ、例の大会かぁ。途中から?」


「会場じゃ、大量の出血の後があって、誰かが死んだ痕跡があって。それから、先生とは連絡が取れていません」


 先輩は黙り込む。

 言葉を探すように。


「先生とは毎晩ここで訓練をつけてもらっていたから、来たら会えるんじゃないかと思った。けど会えなかった。もう会えないのかも知れない。実感が湧いてこない。けど状況証拠は揃ってしまっている」


 急に抱き寄せられて、僕は驚いた。

 先輩の柔らかな肌が、僕を包んでいた。


「泣きなよ」


 先輩は優しく言う。


「泣けばすっきりすることもある」


「そんな、子供みたいに急に泣けませんよ」


「子供みたいに泣くことが解決になることもある。実際」


 先輩は優しく微笑む。


「さっき、ちょっと泣きかけてただろ?」


 涙が滲む。それを拭う。


「我慢するな。格好つけんな。思いっきり泣いちまえ。立ち向かうのはそれからでいい」


 言われているうちに、どんどん涙が出てきた。


「こんな別れなんて、想像してなかった」


「うん、死別なんてそんなもんだ」


「これからも師事できるものだと思っていた」


「日常の一部だったんだね」


「はい。師匠のいない生活なんて考えられない」


「けど、これからはそれに慣れなければならない」


 僕は嗚咽を漏らす。

 赤子のように。


「今は泣きな。先生はいなくなったかもしれない。けど、これからも私はついててあげるから」


 思い切り泣いて、わかったことがある。

 師匠はもう、いないのだ。



続く

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