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未練
闘技場の中央で冬馬はぼんやりと佇んでいた。
今、大会では殺人事件が起きたこと、四天王の乱入が起きたことによって試合は中断されている。
再開されるかもわからない。
「なにをやってるんだ?」
僕はひょいと観客席から飛び降りて、冬馬に歩み寄る。
冬馬は僕を見ると、ふっと苦笑した。
「いやな。ジエンド乱入という前例ができた以上、聖獣同士の戦いはもう認められないだろう。君と決着をつけられないことだけが残念だ」
「……そうだな。どっちが勝ってもおかしくなかった」
「俺が勝ってたさ」
「どうかな。僕も勝ち筋は見え始めていたぜ」
互いに苦笑する。
「せんのない話だ」
「まったくだ」
「しかし妙な話だな。こんな人の集まる大会、しかもホルダーの集まりで殺人などと。目立たない機会なんて他にいくらでもあったはずだ」
「それなんだがなあ」
僕は言い淀んだ。
少し、泣きそうな気分になりながら。
「うちの顧問と、連絡が取れていない」
冬馬は、目を丸くした。
続く




