父がいる理由、そして
「父さん、どうしてここに? 大会のことだって、家族だって知らないことじゃんか」
僕の疑問に尤もだと思ったのだろう。父はゆっくりと語り始めた。
その全てを聞いた時、僕は駆け出していた。
(あいつ、あいつ、あいつ、あいつ――――)
いつもそうだった。
すかしてて乱暴でその癖人一倍仲間思いで。
わかっていたのだ。
あれで終わりになんて、お互いできるわけがないと。
息を切らせながら、その男が開けようとしたドアの扉を閉ざす。
男は迷惑そうに振り向いて、そして気まずげに目をそらした。
僕と喧嘩別れして以来喋っていない、緑だった。
「ずっと歌世先生が僕達に無茶させないか、警戒してくれてたんだってな」
「別に、俺は、そんな……」
「こんな時にまで」
声に涙が滲む。
「不良ぶってるんじゃないよ」
「……なんか、わりい」
「そんなんなら、普通に話そうぜ。危なくなりそうになったら先に言うから」
「知りたくもねえよ。自分から危険に突っ込んでくお前らみたいな変態のことなんて」
緑は吐き捨てるように言った後、口調を和らげて続けた。
「けど、普通に話すぐらいならいいかもな」
「じゃ、昼休み、また一緒に食べようよ」
「うーん……」
緑は思案する。
「もはや表立ってお前らと仲が良いって表明することそのものが危険行為な気がするんだよな」
「失礼な」
悲鳴が響き渡った。
僕と緑とその傍にいた笹丸は、駆けてその元へと駆けつける。
女性が震えていた。
その視線には、おびただしい血の跡。
初撃を受けた後、数歩進んで息絶えたような、そんな痕跡が残っていた。
続く




