混乱
会場は異様な雰囲気に包まれていた。
まるで膨らみきった風船のような。
尖ったもので刺激を与えてしまえば爆発してしまいそうな雰囲気がそこにはある。
風船の中身は、畏怖と蔑視。
まあ、巨大なゴキブリを見るようなものと思ってもらえばわかりやすいだろう。
僕はどうしたものかと口を開く。
先を制するように、女性がヒステリックな声を上げた。
「彼は魔王の息子よ! 殺しなさい!」
我に返ったように、大人達は次々に口を開く。
「待て。魔王軍の分断作かもしれん」
「いいや。実際に彼からは魔物の気配を感じる。処分すべきだろう」
「処分? 一斉にかかってみるか?」
穏やかではない囁き声が波のように押し寄せてくる。
徹と、優子は、いつでも僕を守れるようにと側ににじりよってきた。
ああ、幼馴染のなんと温かなことだろう。
この二人が許容してくれるなら、僕は世界の他のものなどなにもいらないのだ。
その時のことだった。
「皆さん、お騒がせしました。大会特別委員会からの決定をお知らせします」
そう言って、フードを目深に被った男が会場に上がってくる、
その男は、手に鏡を持っていた、
「では、皆さん、この鏡に集中して……」
彼がそうと言った瞬間に、鏡から光が放たれる、
そして、あれだけ緊迫した空気を作り上げていた人々が、次々に気絶していった。
純子やはじめもだ。
「流石に上位ホルダー相手には通用せんか」
やれやれと言いたげに脱いだフードから出てきた男の顔に、僕は驚いた。
「父さん?」
「ああ。もしもと思って来ておいて良かった」
そう言って父は苦笑すると、軽く僕の頭を撫でた。
続く




