魔王の御子
「コトブキが……」
「魔界の王子……?」
幼馴染二人が唖然とした口調で言う。
「正しく。その肉体はベースが人間のものでも、持っている因子は悪魔のものです。貴方達も目の当たりにしてきたのではないですか? 人間離れした琴谷様の身体能力を」
沈黙が場に落ちる。
その中で、動いたのは僕だった。
一歩前に出て、宣言するように言う。
「それがどうした!」
師匠ならそう言ってくれる。
そんな信頼感が、僕を突き動かしていた。
「因子がどうだろうと僕は人間として育てられ、人間として育った! 僕は人間だ! それ以上でもそれ以下でもない!」
「おや、琴谷様。こんな醜い人間界に未練がおありと……さては、恋をしておられますね」
図星を指され、僕は黙り込む。
「その相手とけして子宝に恵まれないとしても、貴方は耐えられますかな」
「私は、平気!」
優子が、前のめりになって言う。
「コトブキさえいてくれれば、他になにもいらない!」
僕の心に一抹の不安が生まれる。
その言葉に甘えるということは、優子の人生を捻じ曲げることになるのではないのかと。
「と、言うことだ」
徹が僕の前に立つ。
「人の恋路の邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってな」
彼は腰を落として、居合の構えを見せた。
「コトブキ、行くぞ。フォーメーションCだ」
「見てくれ、ジエンド。僕にはこんなに素晴らしい幼馴染達がいる」
僕は槍を構え直した。
「人間として生まれて、良かった」
ジエンドの表情が歪む。
そして、彼が次の言葉を発する前に、徹は彼に突貫を始めた。
続く




