続・はじめの戦い
今回も自分は役に立てなかった。
コトブキが五人を一人で圧倒し、二回戦も我らが専門学校生徒会執行部は無事三回戦に駒を進めたわけだ。
ここまではじめに白星はない。
なんとなく、休憩室に居辛くて、ベンチに座って一人黄昏れていた。
力がほしい。
今日ほどそう思ったことはない。
力があれば、自分は勝利に貢献できる。
けど、あのコトブキの強さはなんだろう。
規格外としか言いようがない。
溜息を吐いていると、横に誰かが座った。
「よう」
見てみると、徹だった。
「徹さん、どうしたんですか? こんなところで」
「お前が塞ぎ込んでるんじゃないかと思ってな」
はじめは黙り込み、俯く。
否定の言葉を探したが、見つからなかった。
「俺も、勝てないと思ったことがある」
はじめは顔を上げた。
驚く。
文武両道の徹にすらそんなことがあったのか。
「毎日敗北を突きつけられて、何年もそんな日々が続いた。劣等感は歪み、俺を捻じ曲げた」
「その相手は……?」
徹は苦笑する。
「優子がいるだろう」
「ええ」
はじめの先輩と言えばコトブキと徹と優子、極みの三人だ。
「昔、優子は男勝りでな。俺達も男と思って接していたところがある。本当、男にしか見えなかったんだ」
意外だ。
森少女的な優子にそんな過去があったとは。
「けど、コトブキが魔物を追い返してから、優子は変わった。髪を伸ばし、化粧を覚え、服を選び、綺麗な女の子になった。そんな優子に、俺は惚れた」
はじめは黙り込む。
それが意味するところは一つだ。
「優子は、コトブキに惚れていた。そんな優子に、俺は惚れたんだ」
はじめはなんと言えば良いかわからなくなってしまった。
徹は気にせず、話し続ける。
「それからはなにをしてもダメだった。コトブキより良い成績を取ろうと、コトブキより良い役職に就こうと、コトブキより良いカードに恵まれようと、優子の心は変わらなかった」
「……それが何年も続いたんすか」
「ああ。負けっぱなしだ。けどな、俺はこうも思うんだ」
長年負け続けた徹の行き着いたところ。それは何なのだろうか。
「負けた数だけ、人は強くなれる」
はじめは息を呑む。
今はコトブキと並んで極みの三人に数えられている徹が言うと、説得力があった。
「まずは敗北を認めることだ。俺はそれができなくて何年も苦しんだ。じゃあな」
そう言って、徹は潮風斬鉄を担いで去っていってしまった。
はじめは自分の手を眺める。
コトブキにはけして勝てないだろう。徹にも勝てはしない。団体戦貢献度では聖女のホルダーの優子には劣る。
けど、いつか追い越せるかもしれない。
今は無理でも、今は今でできることがあるはずだ。
心の靄が晴れていくようだった。
はじめは握り拳を作る。
(絶対役に立ってみせるぞ。このままじゃ終わらない)
はじめの戦いは、今始まったのかもしれない。
続く




