極みの三人 優子
「中堅戦、はじめ!」
審判の声とともに忍が優子の眼前へと移動する。
速い。
尋常な速さではない。
コトブキを見慣れている優子でも多少驚いたほどだ。
しかし、多少だ。
予想外ではあったが、反応できないほどではない。
拳の一撃を杖で受ける。
相手の顔が驚愕に見開かれた。
そのまま、杖を返して顎を打ち上げる。
相手は後方へたたらを踏む。
そこに腹部への杖の先端での一撃。
相手は胃液を吐きつつも、後方へと後退した。
「圧倒的すぎる……」
相手側の大将が顔面蒼白になって言うのが聞こえてくる。
優子は気にせず、構えを取った。
「聞いたことがある。MT専門学校には極みの三人と呼ばれる幼馴染グループがいて勇者と聖女と聖獣の組み合わせなのだと」
忍が苦痛に顔を歪めながら言う。
「その聖女とは、あんたのこと?」
「……さあね」
肯定するのは自慢しているようで気が引ける。
けど否定して嘘をつくのもはばかられる。
結果として優子の口から出てきた台詞がそれだった。
「なら、今日。私は新たな伝説を作る!」
そう言って、忍はさっきよりも高速で優子の間合いに入った。
それは、優子にも予想外のことだった。
相手の速度は見切ったと思っていた。
その考えが甘かった。
「破撃突!」
忍が叫び、光り輝く拳が優子の体を吹き飛ばす。
優子は体内から逆流してきた血反吐を吐きながら地面に倒れる。
そこに、忍は飛びかかった。
「アクセル。パワード……ツー」
優子はつぶやくように言う。
次の瞬間、優子に飛びかかった忍は杖で腹を貫かれていた。
それはそうだ。
パワードフォーを常用するような歌世と行動を共にしてきたのだ。
今更アクセルも使わない相手など敵になりようがない。
しかし、我ながら圧倒的だったなと優子は思う。
優子は立ち上がった。
忍は呆然とした表情でそれを見上げる。
「あんた、破撃突のダメージはどうなった? 血を吐いていたのに……」
「ユニークスキルオートリジェネ。あの程度のダメージなら私は数秒で回復する」
忍はしばらく呆然とした表情をしていたが、そのうち俯いた。
「私の、負けだ」
こうして、中堅戦はコトブキチームが勝利。
なんとか次戦への望みを繋いだ形となった。
(自分の責務は果たせたか)
そう、胸をなでおろした優子だった。
続く




