花園の異界
「お前が止めるのだ」
荘厳な声が脳裏に響く。
徹は戸惑っていた。
ここはどこだろう。どこまでも白い広い部屋だ。
「なにを止めるっていうんだ?」
戸惑いつつ、天井に向かって怒鳴る。
「もうすぐお前の脳はその技の使い方を完全に把握する。それまでは睡眠が続くだろう。お前が止めるのだ」
まったく、話にならないというのはこういうことだ。
最近、夢と現が逆転しているような感覚がある。
ただ、現の中で覚えていることも多少ある。
空間を斬る力。
かつての徹にはなかったものだ。
「ったく」
吐き捨てるように言う。
「オーバースペックすぎんだよ」
もうしばらくは睡眠が続くのだろうか。
小鈴やコトブキ達と早く会いたいと思った。
+++++
視界のゆらぎが消え始める。
現れた花園に僕は絶句した。
あまりにもそれは綺麗すぎた。
手入れの行き届いた園内には黒い薔薇が所狭しと咲いている。
遅れて、優子がやってきた。
「わあ」
言って、優子は言葉を失う。
綺麗すぎる。
そう言いたいのだろう。
「進もう」
僕はそう言ってユニコーンのカードをカードホールドに挿すと、歩き始めた。
優子も後をついてくる。
槍を召喚し、装着する。
敵がいつ出てきても良いように、四方に意識をやる。
そのうち、それは見えてきた。
人、だ。
花園でチェアに座り、優雅に紅茶を楽しんでいる。
その瞳が、僕を捉えて、細められた。
「お待ちしていました、琴谷様」
なぜ、異界の住人が僕の名字を?
優子に視線をやったが、やはり彼女も戸惑っているようだ。
「あなたの近辺に危機が迫っています」
彼は、微笑み顔でそう言った。
続く




